地域包括ケアシステムとは?目的や5つの構成要素を分かりやすく解説
「地域包括ケアシステム」(ちいきほうかつけあしすてむ)とは、介護が必要な高齢者に対して、地域一体となって様々なサービスを提供する仕組みのことです。地域の特色を活用して、高齢者が住み慣れた場所で自立した生活を送れるように支援していきます。地域包括ケアシステムが誕生した背景、基本的な考え方、地域における取り組み事例、今後の課題などを詳しくまとめました。
地域包括ケアシステムとは
地域包括ケアシステムとは、高齢者を支えるために必要なサービスを地域一体となって提供する仕組みのことです。急速に進展する少子高齢化に対応すべく、医療・介護サービスの改善を目的に構築されたシステムで、以下のような特徴があります。
- 国ではなく各自治体が主体
- 介護の場を施設や病院から在宅へ移行
- 介護予防を目的に高齢者の社会参加を支援
人口の多い都市部と人口の少ない町村部では、高齢化率の進展状況に差があり、それぞれ課題や需要のあるサービスが異なる傾向です。
地域包括ケアシステムでは、地域差に対応できるように、国ではなく自治体が主体となって介護サービスや生活支援を提供。また、介護が必要になった場合でも、住み慣れた場所で自分らしい生活を送れるような仕組み作りを行います。
地域包括ケアシステムの目的
地域包括ケアシステムの目的は、少子高齢化によって増大する医療や介護負担に対応できる仕組みの構築です。介護の人材不足や財源の問題で、これまでの介護保険サービスと医療保健サービスだけでは、増加する要介護者を支えきれません。特に1947~1949年(昭和22~24年)のベビーブーム期に生まれた団塊の世代が、2025年(令和7年)には75歳以上の後期高齢者となり、さらなる医療負担や介護負担が生じます。
このように、既存の制度では対応しきれない問題に対して、地域の特性や力を活用し、医療・介護サービスを構築する地域包括ケアシステムが提唱されました。
地域包括ケアシステムの5つの構成要素

地域包括ケアシステムは、地域の特性に応じて適切な支援が必要です。
具体的には、①「住まい」、②「医療」、③「介護」、④「予防」、⑤「生活支援」という5つの観点から支援制度の整備が求められています。
- 1住まい
-
地域包括ケアシステムにおける「住まい」は、高齢者が最後まで暮らせる自宅や施設などが該当。住環境は適切な介護サービスや医療を提供する基盤であり、地域包括ケアシステムの中心です。
高齢者が最後まで自分らしく生活するためには、以下のような項目を考慮して適切な住まいを提供する必要があります。
- 身体機能
- 家族構成
- 経済力
- 必要な医療ケア、介護サービス
地域包括ケアシステムでは、上記の項目を考慮しつつ、30分以内に適切なサービスを受けられる生活圏の構築を目標としているのです。例えば、介護を必要とする高齢者がひとりで暮らしている場合、何か問題が生じた際には、すぐに対応してくれるような環境設定が重要。共同住宅の提供や、定期的な訪問サービスが受けられる住まいの提供があると安心です。
また、医療ケアが必要な場合は、高齢者向け住宅の中でも看護師の常駐している施設を選んだり、在宅で訪問看護が受けられる環境を選んだりする必要があります。
地域包括ケアシステムでは、高齢者が適切な場所に住むために、賃貸住宅入居時の保証人を確保するといった手続き関係も重要な支援のひとつ。高齢者の自立や社会参加を促すために、住む場所を拡大する制度の整備も行います。
- 2医療
-
地域包括ケアシステムにおける医療は、在宅生活を安心して送れるように、設備の整った大きな病院や地域の病院が連携することが肝心。「医療」に含まれる病院の具体例は、以下の通りです。
- 急性期病院
- 回復期リハビリ病院
- かかりつけ医
- 地域の連携病院
病気になった際の入院と治療は急性期病院が担い、日常の定期診療をかかりつけ医や地域の連携病院が担うことを想定しています。
例えば、がんを発症した高齢者の場合、初期の治療は急性期病院で実施。治療が終了して退院したあとは、経過観察が必要になりますが、体力や身体機能の問題で通院が困難な高齢者は多いと言えます。そこで、地域の連携病院やかかりつけ医といった「住まい」に密接した医療機関へ定期受診を実施。大きな病気やけがをした際に、入院から在宅、在宅から入院へとスムーズに連携できる仕組みが地域包括ケアシステムでは必要です。
また、地域包括ケアシステムには「訪問看護」や「訪問診療」も重要。高齢になり持病を抱えると、定期的に医療ケアが必要になるケースも増えるため、在宅で医療が受けられるシステムの構築が必要です。
- 3介護
-
地域包括ケアシステムの「介護」は、「在宅介護」と「施設介護」の2種類に分けられます。在宅介護は、訪問看護や訪問介護、リハビリテーションが該当。施設介護は、介護老人保健施設(老健)や特別養護老人ホームなどが当てはまります。
在宅介護では、入浴介助、食事、排泄の介助を通して、要介護者の生活を支援。介護が必要な状態になっても、住み慣れた自宅で生活を続けられるようにサポートします。そして、要介護者の状態の悪化など、在宅での介護が難しくなったときに利用されるのが施設介護のサービス。日常生活にかかわる支援を幅広く行ってくれるため、本人、家族双方の負担軽減が可能です。
在宅介護と施設介護は常時切り替えが可能なため、要介護者の状態に合わせて受ける介護サービスを変更できます。
また、適切な介護サービスを提供できる仕組み作りも重要。介護サービスが充実していても、高齢者がアクセスできる仕組みがないと、有効に活用できません。ケアマネジャーや地域包括センターのスタッフなどを通して、必要な介護サービスをスムーズに受けられる体制作りが求められます。
- 4予防
-
地域包括ケアにおける「予防」は、高齢者が自立し、健康な状態を維持するための取り組みのことです。予防の取り組みは、介護が必要な状態になるリスクを低減し、長く在宅生活を送れるようにします。
具体的には、地域の住民が運営する体操教室やサロンの開催など。リハビリテーション専門職が、各地域の高齢者に動作指導、身体機能の維持、介護予防に必要な運動指導を行う自治体もあります。
単身の高齢者にとって、ひとりで運動などの健康増進活動を行うのはハードルが高く、奥手になった結果、周囲との交流も少なくなりがちです。そのため、予防事業では運動に限らず交流の機会を提供することが期待されています。
また、サービスを提供するだけでなく、高齢者自らがサービス提供者となることで社会参加を促進。地域交流など社会参加の場、外出援助、家事援助などの生活支援、自立支援を提供します。
- 5生活支援
-
地域包括ケアシステムにおける「生活支援」は、高齢者の健康的な暮らしを支援するための福祉サービスや地域交流に関連するサポートです。介護が必要な高齢者やその家族にとって、介護サービスで賄えない生活支援サービスの存在は欠かせません。
具体的には、ボランティアや自治体を主体に、以下のような支援サービスが行われています。
- 定期巡回、見守り
- 配食や食材配達
- 移動販売
- 外出支援
ひとりでの外出が困難な高齢者、移動手段、活動範囲が限定される高齢者にとって、食材配達や移動販売は欠かせないサービスです。また、地域の住民による見守りは、他者との交流を保つだけでなく、災害時の安否確認などにもつながる重要な取り組みとなっています。
生活支援サービスは、介護を必要とする高齢者や介護者の負担を軽減するだけでなく、高齢者が介護に頼らない自立した生活を送るために大切なサービスと言えるのです。
また、生活支援の担い手は専門職による支援だけではなく、家族や近隣住民による支援、ボランティア団体、NPO法人が担っているのが特徴。生活支援は、地域包括ケアシステムの中でも専門知識を必要としないため、住んでいる地域内での協力が期待されます。
生活の基盤となる「住まい」、「生活支援」の要素を土台に、「介護」、「医療」、「予防」の専門的な要素が加わって在宅生活を支援。5つの要素が関連し合って、適切な支援をすることが重要です。
「自助・互助・共助・公助」からみた地域包括ケアシステム

地域包括ケアシステム構築のためには、①「自助」(じじょ:自発的に自身の生活課題を解決する力のこと)、②「互助」(ごじょ:当事者同士の自発的な支え合いのこと)、③「共助」(きょうじょ:制度化された助け合いの仕組み)、④「公助」(こうじょ:必要な生活保障を行う社会福祉制度)が必要不可欠です。
地域包括ケアシステムを上手く機能させるためには、自分自身や周囲の人々、団体がお互いに支え合う役割が重要。助け合いを利用して、高齢者ひとりひとりのニーズに応えていく必要があります。
- 1自助
-
自助は、介護予防や健康増進を目的に、高齢者が自分自身で心身のケアをすることです。主体的かつ積極的に介護予防を目的とした活動に参加して、自身の健康寿命の延伸(えんしん:延ばすこと)を行います。
高齢者が健康で自立した状態を維持することによって、介護負担の軽減に寄与できる自助は、地域包括ケアシステムの根幹。具体的には、以下のような取り組みが挙げられます。
- 健康状態の把握
- 定期的な健康診断
- 体操教室への参加
- 趣味サークルの運営
- ジムなどの保険適用外サービスの利用
健康維持のために行う定期受診や運動だけでなく、趣味などの交流を通して生きがいを求めていくのも、自助においては重要。ジムや人間ドックなど、保険適用外のサービスも利用して、介護予防に努めることも求められます。
- 2互助
-
互助とは、家族や親戚、近所の知人など、プライベートな関係で生活課題を解決していくことです。支え合うという意味では「共助」と共通しますが、互助は、主に費用負担が制度的に裏付けられていない自発的な支え合いを指します。特に、財源や資源に乏しい地方、人口の少ない地域では互助の役割は重要。
互助は、地域住民やボランティアという形で、支援を提供する人が持つ物心両面(ぶっしんりょうめん:物資的な面と精神的な面の両面を指す)の支援によって支えられている側面が大きいと言えます。
例えば、毎朝、定期的に挨拶し合う近所付き合いも立派な互助。安否確認も含め、困ったときに助け合えるきっかけになります。また、健康な高齢者が車で病院を受診する際に、自力で通院ができない方を同伴させるのも互助のひとつ。それぞれが持っている資源や能力を使って助け合うことが互助では重要です。
地域包括ケアシステムの根幹である自助は、あくまで個人の力による支援のため、身体機能や体力が低下する高齢者には負担がかかると言えます。自分だけではどうしても行き詰まってしまったときに、互助による支え合いは、高齢者にとって大きな支えになります。
- 3共助
-
「共助」とは、医療保険や介護保険などの制度に基づいた相互扶助(そうごふじょ:お互いに助け合い、支え合うこと)の仕組みです。共助によるサービスは、必ず制度化されたものになっているのが特徴。年金や各保険、医療などが代表例であり、被保険者の相互負担によって成り立っています。退職後の生活費や医療費負担の軽減など、共助による支え合いは、高齢者が自立した生活を送っていく上で重要なサービスです。
特に都市部など、地域の住民同士の関係が希薄な地域では、近隣住民、ボランティアの協力を得ることは難しく、要介護者やその家族に負担が集中してしまいます。共助による制度化されたサービスは、権利として利用できる介護サービスを提供。「自助」を支え、「共助」の負担を軽減するサービスとしての役割を担っています。
しかし、共助による助け合いは被保険者の人数によるため、共助に該当するサービスは少子高齢化の影響を受けてしまいがち。人口減少が進む今後の日本では、共助による支援規模の拡大は期待できません。
- 4公助
-
「公助」とは、行政による生活保障制度や社会福祉制度による生活困窮者に対する支援のこと。公助は、自助や互助では解決ができない生活課題に対処する役割があります。例えば、税による負担で成り立つ生活困窮に対する生活保護などが該当。生活保護以外の支援は、以下の通りです。
- 一般財源による高齢者福祉事業など
- 人権擁護
- 虐待対策
公助は共助と同様に、税金などの相互負担を拠り所としています。少子高齢化が進行する日本においては、税負担のある公助などは今後の規模拡大は困難。そのため、地域包括ケアシステムでは、自助と互助による地域住民や民間団体の支援がより重要になってきます。
地域包括ケアシステム構築のプロセス

地域包括ケアシステムは、超高齢化の一途を辿る日本において、各市区町村が主体的に高齢者の生活を支えていくためのシステムです。
仕組み作りのために、各市区町村は3年ごとに介護保険事業計画を策定、実施します。介護保険事業計画は各地域によって異なるため、事業計画のあり方は様々です。
ここでは、地域包括ケアシステムの構築に必要な構築プロセスを見ていきましょう。
地域の課題の把握と社会資源の発掘
地域の課題の把握と社会資源の発掘は、地域包括ケアシステムの構築において、重要なプロセスです。地域の課題に対して提供すべきサービスを検討していく前に、地域の高齢者がどのような生活課題を持っているのか、把握する必要があります。
- 介護や支援を必要としている人がどの程度いるのか。
- 地域の高齢者がどのような生活課題を抱えているのか。
- どのような支援を求めているのか。
これらの調査をもとに、地域が抱える課題を精査。さらに、提供されているサービスについての再検討も実施します。提供されているサービスでは解決しきれない課題の把握や、支援内容の改善によるサービスの質を向上させるための改善策を検討するのです。
また、地域包括ケアシステムでは、NPO団体、ボランティア団体などの医療ケア、介護サービスの担い手となり得る人材の発掘が求められます。地域の社会資源に対して必要とされる支援、サービスのバランスを把握し、システムを構築することが重要です。
地域ケア会議
地域ケア会議とは、地域に暮らす高齢者個人に対する支援やサービスの充実と、社会基盤の整備を検討する会議です。
地域ケア会議は、地域包括支援センターなどが主催者となって、役所の職員をはじめとした関係者が参加。地域の課題を把握し、政策へと展開するための議論を行います。地域ケア会議の具体的な目的は、以下の通りです。
- 介護支援専門職のケアマネジメント能力を高める。
- 個別のケースについて課題分析を重ねる。
- 地域における共通した課題を明確にする。
- 関係者間のネットワークを構築する。
- 地域の課題解決に必要な資源開発や介護保険事業計画への反映を目指す。
このように、地域の課題を分析して、具体的なケアシステムを構築するために実施されます。
地域の関係者による対応策の検討
地域包括ケアシステムの構築において、高齢者の在宅生活を支援するために、個別の対応策を検討することも重要です。特に高齢者の心身や健康状態が良くないケース、当事者の周辺住民が被害を受けているケースなど、対応するにあたって困難な場合には、関係者全員の協力が必要不可欠。
対応策の検討には、地域ケア会議を活用して地域包括支援センターが、その地域の行政職員や医療機関、施設などで働く様々な職種の専門家を召集し、対応が困難なケースの高齢者に対して、どのような支援やサービスの提供が必要なのかを議論し、対応策を検討します。
対応策の決定、実行
地域ケア会議などでの議論を経て、その地域が抱える問題に対する解決策と、地域の高齢者、住民の要望を反映した支援内容を決定。その後、決定事項を「介護保険事業計画」に盛り込み、実現させることで各地域の特性や実情に合った地域包括ケアシステムが構築されます。
介護保険事業計画は3年ごとに策定し、実行する計画です。地域包括ケアシステムを構築したあとも、地域の課題の再把握や個別事例の検討を重ね、地域包括ケアシステムが効果的に運用できているのか、地域の現状、ニーズに合っているのかをチェックしていく必要があります。
地域包括ケアシステムの実例

自治体によって、地域の特性や抱えている課題は様々です。都市部や地方で行われている施策を知ることで、地域包括ケアシステムに対する理解が深まります。
ここでは、実際に行われた各自治体の事例を紹介しましょう。
地域包括ケアシステムの実例 | |
---|---|
地域 | 施策 |
①東京都世田谷区 | 要介護者を24時間支援するためのサービス提供 |
②新潟県長岡市 | 医療・介護・生活支援が受けられるサポートセンター設置 |
③埼玉県川越市 | 「認知症支援について検討する会」を推進 |
④三重県四日市市 | 高齢者人材の協力で安価なサービスを提供 |
⑤鹿児島県大和村 | サロンや野菜作りで互助を促進 |
- 1東京都世田谷区
-
東京都世田谷区では、「世田谷区医療連携推進協議会」と呼ばれる医療関係者及びケアマネジャーなどから構成される協議会を中心に、医療職と介護職の連携強化を図っています。
厚生労働省によって創設された「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」を世田谷区内全域で提供できるように体制を整備。介護が必要となった要介護高齢者を、24時間支援するためのサービスが利用可能です。
さらに、入居費用を抑えた都市型軽費老人ホームの設備も整っています。サービスを担う人材の確保として、健康な中高年層をターゲットとしたボランティア活動の促進も実施されているのです。
- 2新潟県長岡市
-
新潟県長岡市では、「サポートセンター」と呼ばれる施設を設置。サポートセンターは、その区域内で地域包括ケアシステムに含まれる、すべての要素をカバーできるようなサービスを提供するための施設です。訪問看護や訪問介護の医療・介護サービスだけでなく、食事、入浴など日常生活のサービスを24時間体制で提供するための体制を整えています。
また、地域で行われる祭りの際には、デイサービスやショートステイなどが含まれる「小規模多機能型居宅介護施設」を休憩所に指定するなど、独特の工夫も実施されているのです。
- 3埼玉県川越市
-
埼玉県川越市では、認知症に対する施策が検討されています。川越市は認知症サポーター養成講座や認知症家族介護教室などを先駆けて実施。認知症となった高齢者とその家族を支援するために、「認知症支援について検討する会」において施策を推進しています。
具体的には、正しく認知症を理解してもらうためのパンフレットの配布、認知症の高齢者を支える家族を対象とした介護教室などを開催。また、「オレンジカフェ」と呼ばれる認知症カフェが月に1~2回程度、様々な施設で催されるなど、認知症を理解してもらうための施策が手厚い点が特徴です。
- 4三重県四日市市
-
三重県四日市市では、地域で支え合うためのサービス構築に向けた取り組みとして、「ライフサポート三重西」を発足しました。ライフサポート三重西は、地域完結型の日常生活支援を目的とした組織です。65歳以上の高齢者向けに地域住民による安価な「サービス提供システム」として運用を開始しています。
シルバー人材を活用することで高齢者の閉じこもりの防止につながり、高齢者の住む生活拠点を中心に、地域住民の互助の関係性が構築されるなど、効果は様々です。今後の展望として、同様の支援ネットワークを市内の各地域に拡大していき、支援やサービス提供体制のさらなる拡大を図っています。
- 5鹿児島県大和村
-
鹿児島県大和村の取り組みは、住民が自ら考える互助の地域づくりです。大和村は、全国平均を超える高齢化率に加え、地域住民同士のつながりが希薄化していました。そこで、地域包括センターが主体となって、生活支援の仕組み作りを提案。具体的には、「地域支え合いマップづくり」を実施し、地域住民が主体となって住民主体の介護予防と生活支援の取り組みを考える機会を提供しました。
その結果、自主サロンの開催、野菜作りなどの支援、販売など、地域住民間による互助の取り組みが広がっています。
地域包括ケアシステムの課題

地域包括ケアシステムの運用は、2014年(平成26年)の法整備から開始され、比較的、歴史の浅い取り組みと言えます。
そのため、様々な問題を抱えており、全国での運用推進には以下のような課題解決が必要です。
低い認知度を解消する
地域包括ケアシステムは認知度が低く、名称自体を知らない方がほとんど。また、名称は知っていても、仕組み作りの目的や具体的な内容については、理解されていません。
仕組みを構築する市区町村の自治体をはじめ、医療機関や地域住民に協力してもらうためには、広く認知してもらう必要があります。地域包括ケアシステムの普及をするには、関連機関や事業所などの役割を明確にし、協力を依頼していくことが重要です。
担い手不足を解消する
地域包括ケアシステムでは医療ケア、介護サービスに加えて、高齢者が在宅生活を送るための配食サービスや見守り、食材配達など様々なサービスが含まれます。高齢化が進むにつれて、サービスを必要とする高齢者の数も増加。しかし、医療や介護の専門職だけでなく、日常的な生活支援を担う人材も不足していることが現状です。
各市区町村は、高齢者や地域住民の様々なニーズに対応するための担い手を確保するための対策が必要。担い手の確保には、行政の人材だけでなく、民間企業やボランティア団体などの人材を活用し、重層的な支援の体制を築く必要があります。地域のコミュニティや人間関係が希薄となっている現代において、サービスの担い手の確保はひとつの課題です。
そこで増加しているのが、介護や支援を必要としない、元気な高齢者の社会参加による担い手の確保。デイサービスやデイケア、配食サービスの運転手などは、定年退職後の高齢者が担うケースも増えてきており、ヘルパーなど一部介護サービスもシルバー人材を活用しているケースが多く見られます。シルバー人材の活用など地域全体の力を集めて、地域包括ケアシステムの担い手を確保する取り組みが大切です。
医療と介護の連携
介護が必要になる高齢者のなかには、複数の疾患を抱えている人もいます。
持病のある方が安心して在宅生活を送るには、医療サービスと介護サービスの連携が必要です。医療サービスと介護サービスでは、それぞれ在宅サービスが提供されていますが、夜間や早朝の対応が不十分で、急変時に対応が取れないことも少なくありません。
身近にいる介護者やサービス提供者が、要介護者の異常、病状の急変を察知した際に、医師、看護師、医療機関とスムーズに連携できるような体制の整備が必要です。
地域によるサービス格差の解消
地域包括ケアシステムでは、地域の自治体が主体となって高齢者を支えるサービスの構築を行います。自治体によっては、財源の不足や人的資本が限られるため、十分なサービスが提供できません。サービスの質に格差が生じると、良質な支援が受けられる地域に人が流れていきます。その結果、人口が多く財源も豊富な都市部に人が集まり、さらにサービス格差が広がってしまう事態になってしまうのです。
また、サービスの受け手だけでなく、財源や人的資源の差は、介護や医療に関連する職業の労働環境や給与などに関与します。そのため、サービスの担い手となる人材が、人気の高い自治体やより生活しやすい自治体に流出してしまう可能性もあるのです。全国どの自治体に暮らしていても同様のサービスが受けられるように、地域格差の解消が必要不可欠と言えます。
まとめ
地域包括ケアシステムは、高齢者を支えるために必要なサービスを地域一体となって提供する仕組みのことです。多職種の連携により、介護・医療をはじめとする各種サービスを高齢者の住み慣れた地域で提供するのが目的。また、市区町村や都道府県の自治体を中心に、地域の特性に合わせた支援を行っていきます。
地域包括ケアシステムを実現するためには、基本的な考えの理解や人材の確保などの課題解決が必要。超高齢化を迎える日本にとって重要な制度です。