心不全とは?原因や症状、予防方法を解説
「心不全」は、日本人の死亡原因で第2位の疾患であり、心不全を患ったために介護が必要となる高齢者も多くいます。心不全を患うと息切れや胸の苦しさから、日常生活に支障をきたし、身の回りのことを行えなくなってしまったり、少しの距離を歩くことさえ疲れてしまったりなど、日常生活が大きく制限されてしまうのです。心不全の特徴や治療方法、心不全にならないための予防方法等を解説していきます。
心不全とは

心不全とは、心臓の構造や心臓に栄養を運ぶ血管の異常などが原因となって発症する病気です。心臓は全身に血液を送り届けるポンプの役割をする臓器であり、心臓が正常に動かなければ、体中へ酸素や栄養を行き渡らせることができません。
心不全は心臓が正常に活動できなくなることで、動悸、呼吸困難、全身の倦怠感などが生じます。異常が発生した場所や程度によっては意識を失ったり、重度であればそのまま亡くなったりする場合もあるのです。
厚生労働省の発表では、心不全は日本人の疾患別の死亡原因で第2位であり、若年層から高齢者まで多くの方が心臓の不調によって亡くなっています。また、65歳以上の高齢者が介護を要する原因としても、6番目に高い割合。要支援・要介護者の5%が心不全を原因に、日常生活へ支障をきたしています。これらのことから、心不全は高齢者にとって健康や寿命を脅かす重大な疾患であると言えるのです。
心不全の主な原因

心不全は、心臓自体の構造の問題や、心臓に繋がっている血管が閉塞することによって発生します。
心臓は機械的な構造と、正確なリズムの電気信号が伝達されなければ正しく機能しません。
心臓の中は、左右に「心房」(しんぼう)、「心室」(しんしつ)という部屋に分かれています。そして、その間には「弁」があり、心臓に流れた血液が逆流することを防いでいるのです。こういった構造がひとつでも異常をきたすと、正しい拍動を起こすことができなくなります。ここでは、心不全が生じる原因の代表例をいくつか見ていきましょう。
心筋梗塞・狭心症
「心筋梗塞」(しんきんこうそく)や「狭心症」(きょうしんしょう)は、心臓へ血液を送る「冠動脈」(かんどうみゃく)が動脈硬化などの理由で閉塞し、心臓の血流が悪くなることで発生。冠動脈の血流が悪くなることを狭心症、酸素や栄養が心臓に行き渡らず心臓の組織が壊死してしまう状態を心筋梗塞と呼び、いずれも血流が不十分となることから「虚血性心疾患」(きょけつせいしんしっかん)と呼ばれます。
狭心症になった方は、重い物を持ち上げたり、階段昇降などの運動を行ったりする際に、胸が締め付けられるような痛みが継続するのが特徴です。また、心筋梗塞の方は動作や状態に関係なく、突然強い胸の痛みと吐き気、冷や汗などの症状が現れます。なかには、急性の強い症状の前兆として、軽い胸の痛みや圧迫感を覚える方も。
しかし、ほとんどの場合は前触れなく急激に症状が現れ、早急な救急処置を必要とします。これらの症状を放置すると心停止となり、そのまま亡くなってしまう方もいるのです。
高血圧
「高血圧」は、心不全を引き起こす原因のひとつ。血圧が高いということは、全身に血液を行き渡らせるため、心臓に強い負担をかけることを意味しています。長期間、心臓に負担がかかり続けると、心臓の筋肉や弁に異常が生じ、様々な心臓疾患の原因となってしまうのです。
高血圧は動脈の柔軟性が低下する「動脈硬化」が原因となって誘引。動脈硬化は加齢によって生じますが、運動不足や肥満、過度の塩分摂取、喫煙などが動脈硬化を促進すると言われています。また、高血圧を誘発するもうひとつの原因が「飲酒」です。アルコールの摂取は少量であれば血管が拡張し、血圧を下げると言われています。しかし、長期間アルコールを摂取し続けることは、高血圧とアルコール性心疾患の原因になるのです。
心筋症
「心筋症」(しんきんしょう)は、心臓を構成する筋肉の肥大化や機能障害が生じる病気のこと。心筋症は、主に以下の3種類に分類されます。
- 1肥大型心筋症
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「肥大型心筋症」は、心臓から血液を体へ送り出す心室の筋肉が硬く厚くなる病気です。心臓が硬くなり正常に拡張できなくなるため、血液を心房から受け取る機能が低下してしまうのが、肥大型心筋症の主な病態となります。多くの方は無症状か軽い症状を自覚するだけですが、放置することでさらなる心不全の原因となるため、健康診断などで指摘された場合は、精密検査や治療を受けなければなりません。
- 2拡張型心筋症
- 「拡張型心筋症」は、心室の拡大を特徴とする疾患です。心室が拡大し、うまく収縮できなくなってしまうため、血液を正常に送り出すことができず、呼吸困難、動悸、起坐呼吸(きざこきゅう:横になると息が苦しくなるため、体を起こして呼吸すること)などの症状が現れます。
- 3拘束型心筋症
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「拘束型心筋症」は、左心室が硬くなり、広がりにくくなるため、血流が不足してしまう病気です。労作時呼吸困難(ろうさじこきゅうこんなん:動いたときに呼吸が苦しくなること)が主な症状であり、長期化すると不整脈や塞栓症(そくせんしょう)の原因となります。
拘束型心筋症は、心臓の構造が変化することで機能が低下し、心不全を引き起こす心筋症です。家族歴や遺伝性があると言われていますが、明確な発生原因は不明であり、誰にでも生じうる病気となっています。
不整脈
「不整脈」とは、心臓に流れる電気信号の経路や発生元に異常が生じ、脈が正しく触れない状態を指します。心臓には「洞房結節」(どうぼうけっせつ)と呼ばれる細胞の集合体があり、洞房結節から電気信号を発信することで、心筋の正しい動きと脈拍が保たれるのです。なお、洞房結節が電気信号を出せなくなった状態を「洞不全症候群」(どうふぜんしょうこうぐん)と呼び、電気信号を受け取る側に問題がある場合を「房室ブロック」と呼びます。
不整脈が生じた場合、血液が全身へ正常に送り届けられない状態となるため、倦怠感や息切れなどの自覚症状が出現。脳へ血液が不足した場合には、失神やめまいなどを引き起こすこともあり、大きな事故やケガに繋がる可能性もあるのです。洞房結節の異常、電気信号の経路については、普通に生活していても気付きづらいものですが、脈拍の異常、息苦しさなどから発見される方も多くいます。
弁膜症
「弁膜症」(べんまくしょう)とは、心臓の中を構成する心房と心室の各部屋を隔てている弁に異常をきたす病気です。心臓は「右心房」、「右心室」、「左心房」、「左心室」という4つの部屋に分かれており、肺や全身に繋がっている血管と心房、心室との間に弁が存在しています。弁は血液が逆流するのを防ぐ構造でできていますが、なんらかの原因で弁が異常をきたし、血流がうまく流れなくなった状態を弁膜症と呼ぶのです。
弁膜症には「大動脈弁狭窄症」(だいどうみゃくべんきょうさくしょう)、「僧帽弁狭窄症」(そうぼうべんきょうさくしょう)、「大動脈弁閉鎖不全症」(だいどうみゃくべんへいさふぜんしょう)、「僧帽弁閉鎖不全症」(そうぼうべんへいさふぜんしょう) などがあり、その症状は血液の流れが悪くなったり、逆流を起こしたりするなど、血流の障害が生じます。
弁膜症は、心電図やエコー検査で発覚しますが、めまい、むくみ、脈拍の乱れなどが発覚のきっかけになるケースがほとんどです。
先天性疾患
先天的に心臓の構造に問題が生じており、心不全を引き起こす方もいます。心臓の疾患を抱えて生まれてくる方は多く、日本循環器学会のデータによれば、日本の年間出生数の約1%(約12,000人)が先天性の心疾患を伴って生まれてくることが分かっています。先天性の心疾患は様々ありますが、代表的な心疾患は、①「心房中隔欠損症」、②「心室中隔欠損」、③「動脈管開存症」などです。
- 1心房中隔欠損症
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「心房中核欠損症」(しんぼうちゅうかくけっそんしょう)は、右心房と左心房の間に穴が開いている状態であり、左心房から右心房へ血液が流入する病気です。これに対して、「心室中隔欠損症」(しんしつちゅうかくけっそんしょう)は、右心室と左心室の間に穴が開いた状態を指し、同じく左心室から右心室へ血液が流れてしまいます。右心房、右心室への血液量が多くなるため、心臓や血管で繋がっている肺への負担が増大。軽度の場合は疲労感や息切れなどが現れ、重度であれば、心不全症状を引き起こすとされています。
- 2心室中隔欠損
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「心室中隔欠損」(しんしつちゅうかくけっそん)は、心臓の下部にある左右の心室を隔てる壁である「心室中隔」に穴が開いている病気です。心室中隔欠損の原因は、胎児期の心臓の形成過程で、心室中隔の一部が閉鎖しなかったことが原因と考えられています。心室中隔欠損症は、穴の大きさにもよりますが、生後数ヵ月のうちに自然閉鎖する場合も。しかし、自然閉鎖が見込めず、症状が強い場合は、手術や治療によって穴を閉鎖します。一方、年齢が進むことで症状が現れ、欠損症が発覚する方もいるため、胎児期に行う心エコーなどが早期発見と治療計画に重要です。
- 3動脈管開存症
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「動脈管開存症」(どうみゃくかんかいぞんしょう)は、大動脈と肺動脈が繋がることでできる血管の病気です。心臓から送り出された血液が大動脈から肺動脈へ入ってしまい、肺と心臓への負担が増え、呼吸困難や心不全に陥ります。また、動悸や息切れなどが生じるだけではなく、血液の悪循環によって、感染症のリスクもあるため、発覚した場合は手術による治療が必要とされるのです。
心不全になるとどうなる?主な症状

心不全に陥った場合、日常生活を送れなくなるほど様々な不調が生じます。また、心不全は、①「心臓のポンプ機能低下による症状」、②「血液のうっ滞による症状」を引き起こす原因。ここでは、心不全に陥る原因とその症状について理解しておきましょう。
- 1心臓のポンプ機能低下による症状
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心臓のポンプ機能低下とは、心臓に入ってきた血液を全身に送り届ける力が低下した状態を指します。心筋の壊死(えし)や、心室の壁が硬くなり心臓がうまく動けなくなると、ポンプ機能が低下するのです。ポンプ機能が低下すると全身へ酸素や栄養が行き渡らなくなるため、倦怠感、息切れ、めまいなどが生じます。また、減少した血液の心拍出量を補うために心拍数が上がり、動悸を自覚する場合もあるのです。
- 2血液のうっ滞による症状
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心臓の機能が低下し、全身に血液がうっ滞した状態を「うっ血性心不全」と呼びます。うっ血性心不全は、臓器や血管に血液が滞留することで体の中に水分が多い状態が続き、足のむくみが出現するのが特徴です。循環がうまくいかないため、肺にも血液が滞留し、呼吸困難や動悸などを自覚する場合も。人によっては、咳や痰が多くなり、夜間に体を横にして眠れなくなる起坐呼吸となる方もいます。
また、うっ血性心不全の診断基準のひとつでもあり、外見上に見られる特徴が「頸静脈怒張」(けいじょうみゃくどちょう)です。これは、首の太い静脈が外から見ても分かるほど大きく腫れた状態であり、右心不全による血液のうっ滞が原因で生じるもの。この他の診断基準としては、X線所見上による心臓の拡大、聴診による肺の異音、急性の「肺水腫」(はいすいしゅ)の有無などがあります。
心不全の種類

心不全には、①「急性心不全」、②「慢性心不全」の2種類があります。どちらも心不全ですが、急激に発生する症状とゆるやかに発生する症状という違いがあるため、確認していきましょう。
- 1急性心不全
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急性心不全は、動脈の閉鎖や心筋梗塞などによって急激に症状が現れる心不全です。急性心不全の多くは、心筋梗塞や心筋、弁膜症など、急激に心臓の構造へ支障をきたす疾患が原因となります。激しい胸の痛み、冷や汗、吐き気などの強い症状が唐突に現れ、異常を感じて診断を受ける場合がほとんど。急激に心臓の機能が低下してしまうため、症状を自覚した際には、迅速かつ適切な処置を受けなければ、突然死してしまうリスクがあります。
- 2慢性心不全
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慢性心不全は、心不全の症状が長期間に亘って続いている状態を指します。急性心不全のような胸の痛み、呼吸困難、胸の圧迫感が強く現れるわけではなく、息切れ、動悸、食欲不振などの症状が慢性的に続いている状態です。心臓の機能が低下した状態が続いているため、心筋や循環器系だけでなく、全身の臓器などへの負担もかかり続けています。
慢性心不全に陥った場合、血圧のコントロールや利尿薬による水分のコントロールによって心臓の負担を緩和。慢性心不全に陥った段階では、治療によって全快することは難しく、症状の緩和と進行を抑制することが中心の医療が提供されるのです。心不全の症状が長期に亘ると、急性心不全の症状を引き起こしやすい状態も続くことになるため、急激に症状が悪化する場合や突然死へ繋がる場合もあります。
心不全の検査

心不全は早期発見と早期治療によって、症状の悪化を防ぎ、再発予防にも繋がります。なお、心不全を発見するための検査方法は様々。どの検査が必要かは原因となっている疾患によって異なります。
ここでは、心不全の検査方法について解説しましょう。
採血検査
採血検査のうち「BNP」(ビーエヌピー:脳性ナトリウム利尿ペプチド)の値を見ることで、心不全を疑うことが可能です。心室の壁から分泌されるBNPというホルモンは、体の外に水分を排出するための利尿作用と血圧を下げる作用を持っており、これらの作用によって心臓への負担を軽減する役割があります。
しかし、心臓に負担がかかっている状態では、BNPは血中へ増加。血液検査でこのBNPの値が高値となっている場合、何かしらの原因によって、心臓へ負担がかかっていることを意味します。BNPの基準値は18.4pg/ml以下であり、40pg/ml以上は要経過観察、100pg/ml以上は心不全の可能性が高いとされ、精密検査を受けることとなるのです。
レントゲン検査
レントゲン検査は、X線と呼ばれる電磁波を使って、体内の様子を画像化する検査です。心不全症状がある方は、心臓の形状が変わる場合や肺へ異常をきたす場合があり、レントゲン検査によって異常を発見することもあります。肥大型心筋症や拡張型心筋症の場合、心臓自体の大きさが拡大するため、レントゲン上で心臓の大きさと位置を確認することで判別可能。また、うっ血性心不全により肺水腫がある場合もレントゲン検査によって分かります。
心電図検査
心電図検査は、心臓を動かすための電気信号を波形に表し、心臓に電気信号が正常に流れているか、心拍のリズムは正常か、どんな心不全症状が生じているかなどを調べられる検査です。心電図は「P波」、「Q波」、「R波」、「S波」、「T波」と名前の付いた波形を計測し、異常のある波や全体における波形の形から、疾患を推測。
心電図検査は、電極を胸に張り付けて行うだけなので負担が少なく、検査結果もすぐに分かるため、心不全の検査としてはもっとも手軽な検査だと言えます。
心臓超音波検査
心臓に対しての超音波検査(エコー検査)は、心臓形状や内部の状態、心臓が正常に機能しているかどうかなどをリアルタイムで観察できる検査方法です。心臓の構造を検査することができる他、弁の状態を検査するために優れているとされています。心臓を輪切りにするように画像を映し出し、異常のある部位を特定。その画像を何枚も組み合わせることで、立体的な構造を見ることも可能です。
血流の速さや流れる方向を測定するエコー検査、心筋の動きを測定するエコー検査などもあり、心不全の診断には重要な検査方法と言えます。
運動負荷試験
心不全患者に心電図を用いて行う検査方法のひとつが「運動負荷試験」です。運動負荷試験は、階段昇降やトレッドミル(ウォーキングマシン)、エルゴメーター(エアロバイク)で運動しながら、心電図を測定できる検査方法。心不全の診断材料として用いる他、重症度の判定やどの程度の運動に耐えられるかを検査することができます。心不全を抱えながら生活する方のリスクを図ったり、リハビリテーションの内容決定、治療効果の判定に用いたりする有用な検査方法です。
MRI検査
MRI検査とは、「磁気共鳴画像法」(Magnetic Resonance Imaging)の略称で、強力な磁場と電波を使って体内の様子を画像化する検査です。MRI検査では、心臓の構造や機能を正確に測定することができ、超音波検査方法よりも平面的な画像で時間を追いながら検査することが可能。特に、心臓の炎症、浮腫み、血流の状態などを検査します。造影剤を使用することで心臓の中をより詳細に検査することもでき、細かな状態を正確に把握できることがメリットです。
カテーテル検査
カテーテル検査は、血管の中にプラスチック製の細い管(カテーテル)を通して心臓まで届け、心臓に繋がっている血管の状態を見たり、血液の動き方や内圧を測ったりする検査です。カテーテルの挿入中に放射線を用いることで位置を確認し、カテーテルが心臓まで届いたら造影剤を使用。血管の詰まりや心臓にかかわる血液の流れを計測します。検査中は局所麻酔を行うため、患者自身は痛みを感じることなく検査を実施することが可能。また、カテーテルは検査だけでなく、心不全の治療の一環としても用いられます。
心不全は治る?治療法を紹介

心不全は、完全に治すことはできませんが、適切な治療を行うことで、症状を改善することが可能です。その治療法としては、①「薬物療法」、②「手術」の2つがあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
- 1薬物療法
- 心不全の薬物療法には、利尿薬、血管拡張薬、強心薬、抗凝固薬が用いられます。利尿薬は、体内の余分な水分、塩分の排出を助け、血管拡張薬は、血管を広げて血液の流れを改善。強心薬は、心臓の筋肉の収縮力を高めます。また、抗凝固薬は、血栓の形成を抑える薬です。いずれも心臓にかかる負担を軽減させます。
- 2手術
- 心不全に対して行われる手術としては、「冠動脈バイパス手術」、「心臓弁膜症の手術」、「心臓移植」があります。冠動脈バイパス手術は、心臓の冠動脈が狭くなったり、詰まったりして血液の流れが悪くなった場合に、血管を繋げて血液の流れを改善する手術です。心臓弁膜症の手術は、心臓が完全に機能しなくなった場合に行われます。
心不全になったら気を付けること

心不全と診断された場合、現れている症状や原因疾患に対しての適切な治療と生活習慣が重要です。
心不全は長期化、慢性化する疾患であり、服薬の継続や全身を良い状態に保つように努めなければ、命にかかわる病気。そのため、医師の指示をよく聞き、気を付けて生活していく必要があります。
治療薬服用の継続
心不全の方は、利尿薬や狭心症の症状を抑える薬などを服用する必要があり、これらは継続的に管理されながら使用していくことが肝心です。浮腫み、高血圧などは、心臓や血流の状態、心機能によって変化するため、薬の量や種類を変更しつつ、対応していく必要があります。服用を怠ってしまうと心臓への負担は大きくなり、全身状態が急激に悪化してしまうリスクも。そのため、処方された薬は容量とタイミングを正しく守って、継続的に服用しましょう。
感染症の予防
心不全では、うっ血による血流の不具合や肺の換気機能低下によって、細菌が体の外に出ていかない状態となります。そのため、感染症にかかりやすくなり、全身状態の悪化にも繋がってしまうのです。
健常人にはなんでもない風邪症状も、心不全患者には重症になりやすく、高熱や肺炎など命にかかわる程度まで悪化する場合も。そのため、日頃から手洗い、うがいなどの衛生面への配慮、「インフルエンザ」や「肺炎球菌」といった季節ごとに訪れる感染症に対してのワクチン予防などを徹底して行うことも大切です。
ストレス緩和
心臓などの臓器は、自律神経によって制御されています。自律神経はストレスの影響を受けやすく、ストレスによって働きが乱されることで、心機能へも大きく影響するのです。
自律神経には「交感神経」と「副交感神経」があり、交感神経が働くことで心臓の動くリズムや心臓から出る血液の量は大きくなります。これは、心臓の負担も大きくなるということであり、心不全を患っている方はコントロールが必要な部分です。ストレスによって交感神経が過剰に働いてしまう方もいるため、可能な限り、心の負担が少なくなるような生活を送っていくことが望ましいと言えます。
十分な睡眠
心不全と睡眠は深いかかわりがあるとされています。睡眠を十分に取れていない場合、自律神経が正常に働かなくなるリスクもあります。さらに、心不全と睡眠の間にある問題が「睡眠時無呼吸症候群」です。
睡眠時無呼吸症候群には、心不全を原因とするタイプと肥満などから上気道が閉塞して生じるタイプの2種類が存在。心不全由来の睡眠時無呼吸症候群は、心機能の低下によって呼吸のコントロールが効かなくなり、就寝中に呼吸が止まってしまう病気です。熟睡ができなくなることで生活習慣も乱れ、さらに心不全を悪化させてしまう原因となります。そのため、心不全の方は睡眠に関する検査や評価などを実施する場合があるのです。
心不全にならないための予防方法

心不全の原因には、心臓の構造や形状に突然支障が出ることで発症するものもありますが、生活習慣や健康状態によって発症する場合も多く存在。そのため、普段から予防に努めた生活を送ることで心不全に罹患するリスクを減らすことが期待できます。
心不全にならないために、どのような予防方法があるか確認しましょう。
適度な運動
心肺機能は運動不足によって低下し、心不全の症状を進行させます。心臓は筋肉の一種であり、運動して負荷をかけることで、血液を送り出す力が上がったり、強い運動にも耐えられるようになったりするのです。さらに、運動不足は糖尿病や肥満、高血圧といった「生活習慣病」のリスクを高めてしまうため、散歩、ウォーキングなどの運動を継続して行い健康を維持することが、心不全予防には重要となります。
バランスの良い食生活
心不全の原因となる糖尿病や食塩の過剰摂取による動脈硬化、肥満などは、血圧を上昇させる食生活によって発症リスクが増加。偏った食生活や栄養を補えない食事が続くことで血管が詰まりやすくなり、心筋炎や心筋梗塞を生じる原因となります。
心不全を予防するには、たんぱく質、食物繊維、ミネラル、ビタミンを適切に摂取するなど、バランスの良い食生活が重要です。低糖質や減塩の食材を摂取したり、血管の通りを良くする青魚、大豆食品を積極的に摂取したりするなど、工夫した食事を心がけましょう。
禁煙
たばこの成分には動脈硬化を促進させ、高血圧、コレステロール異常、血栓の形成などを引き起こす作用があります。また、喫煙によって心筋の酸素が欠乏しやすくなり、狭心症の症状を悪化させてしまうのです。
これらのことから、長期間の喫煙は心臓や血管に悪影響を及ぼし、心不全を引き起こすリスクが高い傾向に。そのため、たばこを吸う習慣のある方は、禁煙することで心不全のリスクを減らすことが期待できるのです。
適度な飲酒量
心不全の予防として、アルコールの適度な摂取は良い方向に働くとされています。男性であれば1日ビール約500ml、女性であればビール約200mlの飲酒は、心臓疾患にかかるリスクを軽減するだけではなく、心臓関連死のリスクを約20%減らすことができるとされています。ただし、長時間に及ぶ飲酒やアルコールの大量摂取は、高血圧といった心臓疾患のリスクを高める傾向に。アルコール心筋症の場合、飲酒が心不全を誘発してしまうため、注意しなければなりません。
まとめ
心不全は突然死のリスクがある疾患であり、長期的にも予後不良とされています。年齢にかかわらず、毎年罹患者や死者が多く出ており、日本の死因で2番目に多い病気です。心不全は突然発症する場合、先天的に問題を抱えている場合などがありますが、生活習慣などから徐々に罹患する方も少なくありません。心不全にならないためにも、普段から生活に気を付け、予防に努めることが大切と言えます。