褥瘡(じょくそう)とは?原因や予防・治療方法を解説
「褥瘡」(じょくそう)は、皮膚が長い間圧迫されてしまうことで発生する状態のことで、「床ずれ」とも呼ばれています。自分で体を動かすことができない人、寝たきりの人、皮膚が弱くなっている高齢者に起きやすい症状です。褥瘡は皮膚が赤くなるところから始まり、進行すると皮膚は剥がれ、筋肉や骨までも損傷させる危険性があるため、注意。介護者は、褥瘡の発生を防ぐこと、進行をさせないために、適切な対応について知っておきましょう。褥瘡の症状、どのような人に発生しやすいのか、予防法、治療法について解説します。
褥瘡(じょくそう)・床ずれとは

褥瘡とは、寝たきりや長い間同じ姿勢を取っていることにより、皮膚の一部が赤くなったり、傷ができたりすることです。自分で動くことができず、姿勢を変える頻度も少ないと、体の一部がベッドや座面と接触してしまいます。
長時間、皮膚に圧力が加わることで褥瘡に発展してしまうのです。医療現場では、褥瘡と呼ばれていますが、「床ずれ」と呼ばれることもあります。褥瘡は、状態がひどい場合、細菌感染にも繋がってしまう危険も。自分の家族、または高齢者の介護をする立場にある人は、褥瘡を防ぐ方法について理解し、初期症状にいち早く気付いて適切な対処をすることが大切です。
褥瘡の症状
褥瘡で出現する主な症状は以下の通りです。
- 皮膚の発赤(ほっせき:赤くなること)
- 水ぶくれ
- 内出血
- 浸出液の発生
- びらん
- 潰瘍
- 皮膚の壊死(えし:細胞が死ぬこと)
- 表皮だけでなく、皮下組織や骨、筋肉の損傷
- 感染
これらの症状は、褥瘡の重症度や時期によって現れ方が異なります。初期症状は皮膚の発赤。重症化してからでは、治りが悪くなってしまうため、早い段階で褥瘡に気付き、対策または治療を行うことが推奨されます。
症状が進行すると、内出血や水ぶくれが現れ、場合によっては皮膚が剥がれてしまうこともあるのです。この皮膚が剥がれる症状を「びらん」と呼びます。びらんは、皮膚の中でも上層部にある表面が剥がれた状態のこと。損傷がさらに深くなった状態を「潰瘍」(かいよう)と呼びます。
重症度が高いケースでは、皮膚が壊死してしまうことで、「皮下組織」(ひかそしき:皮膚の下にある組織で皮下脂肪やそこを通る動脈、静脈のこと)にまで組織破壊が広がり、そこから、骨、筋膜、筋肉にまで破壊が及んでしまうことも。深くまで進行が及ぶと、傷口から感染を引き起こすリスクが高くなってしまいます。
傷口から感染をすることで、皮膚だけの症状には留まらず、発熱、倦怠感、嘔吐、下痢なども出現するため、注意しなければいけません。なお、褥瘡が感染すると、最悪の場合は死に至ることも。これらの症状が出た場合は、迅速かつ、適切な対応が必要となります。特に、介護をする立場にある人は、初期の段階で気付けるよう、意識して状態観察することが大切です。
褥瘡の原因は?

褥瘡の原因として代表的なのは、寝たきりの状態、長時間の同一姿勢。
その他にも、皮膚や全身状態の悪化、摩擦などが原因として挙げられます。褥瘡は、これらが相互に影響しあって、発症するのです。
- 1寝たきりや長時間の同一姿勢
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寝たきりの状態やずっと同じ姿勢を取ることで、体の一部が常に圧迫されてしまい、褥瘡に繋がります。基本的に人間は、寝ているときは寝返りを打ったり、座っているときは座り直したりすることで、姿勢を変化。
そして、体の一部が長い間圧迫されることを防いでいます。しかし、ひとりで動けないような人は、このような体位の変換を行うことができません。そのため、褥瘡予防のために、介護する人の協力が必要になるのです。
特に圧迫されやすいのは、体の中でも骨が突出している部分。長い間同じ姿勢でいると、ベッドや座面、背もたれなどにより、骨突出部(こつとっしゅつぶ)が圧迫されてしまい、血流が悪くなるのです。血流が阻害された皮膚の組織には、充分な栄養や酸素を送ることができません。これによって、皮膚の状態不良を招き、褥瘡が発生するのです。
- 2皮膚の摩擦
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褥瘡は、圧迫だけでなく、皮膚の摩擦でも発症することがあります。特に皮膚が弱っている状態の人は要注意。ベッド上で体位変換をしたとき、ギャッジアップ(介護用ベッドで頭の部分を高くすること)したときのずり落ち、車椅子に深く座らせるために体を引き上げたときなどに、摩擦が発生します。
皮膚が弱っていると、この摩擦により組織が傷付いてしまうのです。そのため、体位変換の際は皮膚を傷付けないような工夫、ギャッジアップをする際はずり落ちないような姿勢調整が必要。着ている衣類のしわも摩擦の原因となることがあるため、注意しましょう。
- 3皮膚の状態
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皮膚が弱くなっていたり、不潔で蒸れていたりする場合、褥瘡は起きやすくなります。基本的に褥瘡は圧迫や摩擦によって出現しますが、皮膚の状態によって発生のリスクは異なるのです。
例えば、高齢で皮膚が乾燥したり、薄くなったりしている方は、褥瘡ができやすいと言えます。さらに、汗や排泄物などの汚れ、湿った状態などにより、皮膚の環境が良くない場合にも、褥瘡の発生率は高め。そのため、圧迫や摩擦だけでなく、表皮を清潔に保つことも大切になります。
- 4全身の状態
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褥瘡は皮膚の症状ですが、全身の状態が発生のリスクに影響を及ぼすのです。例えば栄養状態の悪化、血行の不良などが発生のリスクを高めることもあります。
「脳卒中」、「糖尿病」の影響で、「表在感覚」(ひょうざいかんかく:触覚、痛みの感覚など)に障害がある方は、皮膚の変化に気付くことができません。皮膚の変化に気付けないと、発生のリスクは高くなってしまいます。
また、運動麻痺や筋力の衰えにより、体を動かすことができなければ、当然、自分で姿勢を変えることはできません。結果として、長時間の同一姿勢による表皮の圧迫に繋がってしまうのです。
褥瘡になりやすい人
褥瘡になりやすい人の特徴は以下の通りです。
- 自分で体動ができない人
- 1日中ベッド、もしくは車椅子で生活する人
- 栄養や血行状態が良くない人
- 尿、便の失禁がある人
- 高齢で皮膚が弱っている人
- 脊髄損傷、脳卒中、糖尿病などの持病がある人
自分で体の向きを変えられない人、一日中ベッドや車椅子で過ごす人は、一部の表皮を圧迫してしまう時間が長くなります。また、栄養状態や皮膚の状態が良くない人は、表皮が損傷されやすく、褥瘡になりやすい傾向です。さらに、脊髄損傷、脳卒中などの持病がある人は、運動障害や感覚障害の症状が出現するため、注意しなくてはなりません。
褥瘡を予防する方法

褥瘡は症状が進行してからでは、治療は難渋(なんじゅう)してしまう可能性があります。
早い段階で発生に気付き、進行を防ぐこと、発生させないための予防が大切。適切な予防をすることで、発生のリスクを下げることができるのです。
- 1体位変換をこまめに行う
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褥瘡になる原因のひとつは、表皮の一部が長い間圧迫されること。同じ部位が常に圧迫されないように、体位変換をこまめに行うようにしましょう。
褥瘡予防用のマットを使用している場合は、もう少し時間の間隔を空けても良いとされています。体位変換を行う際は、摩擦や衣類のしわが発生しないように注意しながら行いましょう。褥瘡予防の体位変換は2時間ごとに行うのが基本。圧迫の時間が長引くと、発生のリスクを高めてしまいます。
また、予防だけでなく、本人にとって安楽な姿勢を意識することも大切です。右向き、左向き、仰向け、それぞれの姿勢で体の圧が加わりやすくなる部位は異なります。褥瘡には、発生しやすいとされている部位があり、その部分は除圧(じょあつ:圧を逃がすこと)を意識することが大切。
特に褥瘡は骨の突出した部分に出現しやすいため、意識しましょう。仰向けの場合、仙骨部(せんこつぶ:お尻の上部にある骨が突出した部位)、後頭部、肘、踵(かかと)などが好発部位。横向きの場合は、肩、膝、骨盤、くるぶし、大転子(だいてんし:大腿骨上部[だいたいこつじょうぶ]の骨が突出した部分)が好発部位になります。体位交換をひとりで行うのが難しい場合は、2人で行うなどの工夫をしましょう。
- 2スキンケアを行う
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皮膚を清潔に保つことも大切。体を動かすことが困難な人は、皮膚のケアも自分で行うことはできません。そのため、介助する人がスキンケアを行う必要があるのです。例えば、排泄物の付着が表皮を湿らせ、褥瘡の発症リスクを高めてしまうこともあります。
これらを防ぐためには、オムツ交換、陰部、肛門の洗浄をこまめに行うこと、表皮を守るためにクリームを使用することなどの対処をしなければいけません。その他、汗も皮膚を湿潤させる原因。汗かきの人は、汗をかきにくい涼しい環境づくり、必要に応じて汗の処理をするといった対応が必要です。
- 3クッション・体圧分散寝具などを利用する
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クッションや体圧分散寝具を利用することも推奨されています。クッションはベッド上での姿勢調整に有用。例えば横向きになる際に、背中にクッションを入れてあげることで、姿勢が崩れるのを防ぐことができます。
また、足の下に入れて骨が突出している踵への圧力を軽減させることも可能です。体圧分散寝具は、体の設置面を増やして、骨の突出部位への圧力を分散させるための寝具のこと。
代表的な体圧分散寝具としては、空気の力を利用して体圧分散を図るエアマットレスがあります。褥瘡のリスクが高い人に対しては、普通のマットレスではなくエアマットレスの利用を検討しましょう。
- 4食事を改善する
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食事を改善することで、褥瘡の予防に繋がることがあります。これは、栄養状態の悪化や低栄養は褥瘡だけではなく、他の病気を引き起こす原因になりうるからです。そのため、タンパク質、ミネラル、ビタミンのバランスの良い食事を摂りましょう。必要なエネルギーの量は個人によって異なります。適切な栄養を摂取するためには、専門家の指導や助言を受けましょう。
褥瘡の治療方法

褥瘡が発生した場合は、治療が必要です。治療方法は重症度によって異なります。
- 1軽症の場合は塗り薬などで対応
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褥瘡の症状が軽度の場合は、塗り薬、スキンケア、創部の保護などで対応しましょう。使われる塗り薬の種類は様々です。
創部の保護を目的とした薬、感染が起きたときに使われる薬など、医師の判断で、薬が処方されます。薬だけでなく、皮膚をきれいに保つことも治療をする上で大切。
損傷部位やその周囲を清潔に保つために、洗浄と消毒を行います。また、ドレッシング材という損傷部を覆う素材を用いて、外部からの刺激や感染を防ぐこともひとつの方法です。
- 2中等症以上の場合は外科的治療を行うことも
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褥瘡の症状が中等症以上の場合、外科的な治療が選択されることもあります。外科的治療とはいわゆる手術のこと。壊死した組織を取り除く手術、本人の皮膚を用いて創部を修復する手術などが行われるのです。
手術は、塗り薬やドレッシング材だけでは完治が見込めない場合、損傷が骨にまで及んでいる場合に検討されます。手術適応とならないためにも、予防や進行を防ぐための対策が大切。症状が重い場合、このような手術が適応となることも覚えておきましょう。
まとめ
褥瘡は長時間による表皮の圧迫、皮膚や全身の状態不良などが原因で発生します。初期症状は表皮の発赤、水ぶくれですが、進行することで壊死や感染に発展してしまうことも。基本的に、褥瘡の治療は薬や創部の保護になりますが、症状によっては手術をしないといけなくなることもあります。褥瘡を防ぐために、普段から体圧分散を意識した体位変換を行うこと、充分な栄養を摂り、全身状態を安定させることが大切。皮膚の症状だからと放置せずに、普段から予防に努めましょう。