口腔ケアとは?高齢者が行う重要性・ポイントを解説
口腔ケアは、口の中を清潔に保ち、口から起こる様々な問題を予防することを目的としています。口腔ケアは、食事や会話のような基本的な口の機能を維持・改善するだけでなく、体全体の健康、生活の質を高めるためのもの。口腔ケアの基礎知識や種類、口腔ケアが重要な理由、ポイントを解説します。
口腔ケアとは?

口腔ケアは、口の中の清潔さを維持することにより、歯周病や虫歯などを予防し、体全体の健康を維持、向上させるためのケア。
例えば、歯周病の原因となる細菌は、脳梗塞や動脈硬化、心筋梗塞、肺炎などの病気のリスクとなる可能性を高めます。口腔ケアは、全身の健康を守るために、正しい知識を持つことが必要です。
口腔ケアはなぜ必要?
口腔ケアを怠ると虫歯になるだけではなく、歯周病や口の中に残る細菌が気道を通じて肺に達し、肺炎を引き起こすリスクが発生。さらに歯周病は、糖尿病やアルツハイマー型認知症の発症リスクを高めるとも言われています。
1日に何回口腔ケアをすればいい?
口腔ケアは、最低限として1日に2回実施することが推奨されています。理想的には毎食後に行うのが望ましいですが、難しい場合は少なくとも起床後と就寝前の2回は口の中を綺麗にしましょう。
口腔ケアの種類
口腔ケアには、「器質的口腔ケア」、「機能的口腔ケア」に分かれており、どちらも口の中の健康を保つため重要です。
器質的口腔ケア
器質的口腔ケアは、歯磨きやうがいを用いて、歯や歯茎、舌の上に残っている食べ物、歯垢を取り除き、口の中を衛生的に保つことです。器質的口腔ケアを行うことで、口腔内の細菌の数を削減することが可能となり、歯周病や誤嚥性肺炎などのリスクを低減させることが可能。さらに、定期的に行われる器質的口腔ケアは、口臭を減少させたり、咀嚼や食事の機能を向上させたりする効果もあります。
機能的口腔ケア
機能的口腔ケアとは、嚥下のトレーニングや口の部分マッサージを通じて、食事や会話をする際の口の動きを保持、回復させるケアのこと。機能的口腔ケアにより、口の中の機能低下を緩和し、高齢者や口の機能に制約がある人々の生活の質を高めます。
高齢者にとって口腔ケアが重要な理由

口の機能が衰えると、噛む、味わう、飲み込むなどの動きがスムーズにできなくなり、結果として必要な栄養が摂取できなくなる可能性があります。栄養不足が続くと全身の機能も衰え、認知症が悪化する可能性も高まるのです。
口腔ケアは、誤嚥性肺炎の予防など、高齢者の体の機能を回復させるための重要な手段。口の中を最適な状態にするケアを行うことで、食事の楽しみを取り戻します。
口腔内の環境が健康につながる
口の中を清潔に保つことで、歯周病をはじめとする細菌性の疾患の予防や、口臭の改善にも役立ちます。口腔内の環境は、全身の健康状態と深く関与し、心臓病や糖尿病、呼吸器系の疾患など全身疾患のリスクとも連動。さらに高齢者では入れ歯をしている方が多く、入れ歯と歯茎などの粘膜の間に細菌が発生しやすくなります。
コミュニケーションが取りやすくなる
適切なケアを行うことで、会話のときに気になる口臭が改善され、口や舌の機能が活性化。発音も明確になります。さらに、ケアを通じて口周りの筋肉がほぐれることで、表情が豊かになることから、コミュニケーションの向上につながる期待もできるのです。
食事をしやすくなる
口腔ケアを行うことで、話す、食べるといった口の機能や舌の動きを保持、改善することが可能。味覚は唾液に溶け込んだ成分にのみ反応するため、舌が汚れていると味を正しく感じることができません。ケアを実施することで、舌の表面の汚れを除去し、唾液の分泌を促進、味覚の感度を高める効果も。味覚が向上すると、食欲不振の解消や栄養不足、脱水状態の予防にも役立ち、結果として生活の質の向上に寄与します。
様々な病気の予防になる
口腔ケアを行うことで、口の中の細菌の量を減少させることができます。口の中には、食中毒や表皮感染症を引き起こす「黄色ブドウ球菌」や、呼吸器感染症の原因となる「肺炎桿菌」(はいえんかんきん:免疫力が弱まった人々に感染し、肺炎、尿路感染症、敗血症などを引き起こす)など、全身に影響を及ぼす細菌が存在。
適切なケアを怠ると細菌が繁殖しやすい環境を作り出し、感染症や肺炎のリスクを高めるのです。口腔ケアをすることで、細菌を含んだ唾液や食べ物が、誤って気管に入り込み肺炎を引き起こすリスクを低減させます。
また、口の中の細菌は、脳卒中や心筋梗塞など全身疾患のリスクを高めることが知られており、口腔ケアをすることで、これらの疾患の予防も可能に。加齢によるリスクは避けられないものの、ケアによって高齢者の死亡リスクを減少させることが期待できるのです。
認知症の予防にもある
口腔ケアを通じて口の動きを活発にすると、口を開閉したり食べ物を噛んだりする動作が脳に良い刺激を与えます。脳の記憶にかかわる部位である「海馬」(かいば)にある神経細胞は、噛むたびに増加。口腔ケアは認知症の予防にも効果的なのです。
高齢者の口腔ケアのポイント・注意点

自分自身の口腔ケアに難しさは感じませんが、介助が必要な方の口腔ケアを行う場合は、難しいと感じるかもしれません。
ここでは、高齢者の口腔ケアのポイントや注意点を、ひとつずつ紹介していきます。
できるだけ本人が行う
介護者がすべて行うのではなく、本人が自分でできることは本人に任せることが重要です。介助は最小限にとどめ、必要に応じて自助具や工夫された口腔ケア用具を活用しましょう。介護者は、本人が自力でできない部分を補い、最終的なチェックを行うことでその人の残存能力を最大限に活かすことにつなげることができます。
虫歯などがないか口内の状態を確認する
口腔ケアを行う際は、口内の健康を日々チェックすることが大切。虫歯の有無や歯肉の腫れ、出血の確認、口臭の状態などを確認することで、口腔内の問題の早期発見が可能です。
手際良く終わらせることを心がける
高齢者の口腔内は、乾燥しやすく、不快さを感じがちな状態。自分で磨くことが難しい場合でも、口の中を他人に見られることや、他人による歯磨きを受け入れがたいと感じる方もいます。強制はせず、口腔ケアは短時間で済ませましょう。
高齢者が口腔ケアを快適に感じるためには、ケアの重要性を事前に理解してもらい、リラックスした状態で「歯を磨くこと=快適である」と感じられるように配慮することが大切。そのため、口腔ケアはできるだけ短時間で終え、口内が清潔になることで快適さを感じてもらえるよう、心がけましょう。
姿勢を良くして誤嚥に注意する
口腔ケアを実施する際は、誤嚥を防ぐためにも安全な姿勢を取ることが重要です。顎を上げた状態でのケアは、誤嚥のリスクを高めるため避けて、うつむき加減の姿勢でケアを行い、安全を最優先にしましょう。ベッドでケアを行う場合は、ベッドを30~45度程度傾けることで、より安全にケアを行うことができます。
まとめ
日本の歯科受診率は、他国に比べると低い割合になっています。定期的な歯科受診は歯の健康を維持するだけではなく、高齢になったときに残存している歯の本数にも影響。定期的に高齢者の口腔ケアを行い、口腔内の健康を維持しましょう。口腔内が綺麗になることで、食事をおいしく食べることができるのです。