認知症による妄想や作り話とは?原因や種類、対応方法を解説
「妄想」は認知症の進行に伴って現れる、典型的な症状のひとつです。認知症の妄想では、認知症患者が非現実的な信念、思い込みを持つことを指します。妄想という言葉を耳にしたことがあるものの、その原因、どのように対応すると良いか分からないこともあるでしょう。また、認知症の方の介護をする上で、この妄想に悩まされることも少なくありません。「認知症による妄想や作り話とは?原因や種類、対応方法を解説」では妄想の原因、対応、おすすめの高齢者施設の解説をしていきます。
認知症による妄想とは

妄想とは、現実では起きていない間違った事実を、信じ込んでしまう症状のことです。認知症の方は、この妄想の世界から抜け出せず、現実との区別ができなくなってしまいます。周りの方に事実と異なることを指摘されても、なかなか理解できません。
この妄想により、現実と認知症の方の頭の中で乖離ができてしまい、徘徊、暴力などの他の症状に繋がってしまうこともあるのです。
妄想は認知症の代表的な症状のひとつですが、認知症になったからと言って、すべての方に妄想の症状が出現する訳ではありません。
妄想が現れる原因
認知症による妄想は記憶障害に加え、不安や焦り、寂しさ、恐怖心、情けなさなどの様々な感情が影響しているとされています。認知症の症状は「中核症状」と「周辺症状」に分類され、中核症状は脳の萎縮や障害によって起こり、記憶障害、見当識障害(日付や場所が分からなくなる)、理解力と判断力の低下、実行機能障害(物事を計画立てて行えなくなる)などが代表的な症状です。
一方、周辺症状は中核症状、周りの環境、周囲の対応等が影響して出現し、抑うつ、幻覚、興奮、徘徊等が主な症状となります。妄想も周辺症状のひとつであり、記憶障害や見当識障害などの中核症状、周囲の環境、人間関係によって不安、焦り、恐怖心が生まれて出現するのです。
妄想は認知症の初期症状のひとつ
妄想は認知症の初期症状。他にも認知症の初期症状は様々で、記憶障害、見当識障害、実行機能障害、理解力と判断力の低下、無気力などの症状が初期症状として挙げられます。
認知症による被害妄想の種類
認知症の被害妄想にはいくつか種類が存在。代表的なものは、「物盗られ妄想」、「対人関係の被害妄想」、「妄想性人物誤認」などです。
物盗られ妄想

物盗られ妄想は、認知症による妄想の中で最も代表的な妄想。財布やお金など、自身の所有物を盗まれたと言い出します。しかし、実際には物を盗まれておらず、自分が置いた場所を忘れていたり、お金を使ったことを忘れていたりすることが多いのです。
時には長時間に亘り家じゅうを探し回ったり、家族や介護者を犯人扱いしたりすることもあります。
物盗られ妄想は、中核症状である、記憶障害が大きな原因。また、自分が失敗したことや認知症を認めたくないというプライドも妄想の発症に影響しているとされています。物盗られ妄想では、認知症の方に対して不安を与えるなど、自尊心を傷付ける対応はしないよう気を付けましょう。
対人関係の被害妄想
見捨てられ妄想
「見捨てられ妄想」は、家族や介護する人に「見捨てられる」と思い込む妄想。認知症になることで、これまで当たり前にできたことができなくなり、失敗が増えたり、介護をして貰う機会が増えたりします。このような体験が続くと、「家族に迷惑を掛けている」、「自分はいない方が楽なのではないか」との感情を抱いてしまうのです。
これらの感情が自尊心の低下に繋がり、見捨てられ妄想に至ってしまいます。特に家族との会話が少なかったり、無視をされたという経験があったりすると、孤独を感じて見捨てられ妄想に繋がる可能性が高いため、注意が必要です。
迫害妄想
「迫害妄想」は家族や介護する人に「いじめられている」、「虐待されている」、「暴力をされている」などの妄想を抱くことを指します。また、家族や介護する人だけでなく、全く関係のない方にまで妄想が広がることもあるのです。迫害妄想も認知症の症状の進行による不安、恐怖心などの感情が原因とされています。
嫉妬妄想

「嫉妬妄想」は配偶者が浮気をしていると思い込む妄想。配偶者が少し出かけただけで、異性と浮気をしているのではないかと疑ってしまいます。
なかには、配偶者が異性のケアマネージャー、介護士と少し話しているだけで浮気を疑うこともあるのです。嫉妬妄想の場合、浮気でないことを伝えても中々理解はして貰えません。また、嫉妬妄想に関しても、不安感や孤独感が原因だとされています。
妄想性人物誤認
「妄想性人物誤認」とは、知らない方を昔からの知人と勘違いしたり、家族や昔からの知人を全く知らない方と勘違いしたりする諸症状です。
カプグラ症候群
「カプグラ症候群」は、妄想性人物誤認の中でも代表的な症状のひとつで、家族や友人など、身近な知人が、そっくりな別人と入れ替わっていると思い込んでしまう症状を指します。
フレゴリの錯覚
「フレゴリの錯覚」とは、他の人が変装をしているのではないかといった錯覚です。家族しか住んでいないのに、家族以外に知らない人物も家に住んでいると思い込む症状などを指します。
鏡徴候
「鏡徴候」は、鏡に映る自分の姿を自分であると認識できず、他人であると錯覚してしまう症状です。また、類似するものとして「TV徴候」があり、テレビの世界と現実世界の境界線がなくなる症状があります。これは、テレビ番組に出演する人物へ話しかけたり、テレビ内で放送されている物語を本当のことだと勘違いしたりする妄想です。
自己分身症候群
自己分身症候群は、自分と全く同じような人がもうひとりいると思い込む症状を指します。
認知症の種類別による妄想の特徴
認知症にはいくつか種類があり、種類ごとに発症する妄想も異なるのです。
レビー小体型認知症
「レビー小体型認知症」は認知症の中でも2番目に多い種類。脳内の神経細胞内にレビー小体という物質が溜まることで認知機能障害を起こします。レビー小体型認知症に見られる代表的な妄想は「替え玉妄想」。自身の身近にいる方、一緒に住んでいる家族を本物ではなく、偽物だと思い込んでしまう妄想です。
アルツハイマー型認知症
「アルツハイマー型認知症」は、認知症の中で最も多い種類。アルツハイマー型認知症は加齢、生活習慣の乱れ、アミロイドβという物質が脳内に溜まることで認知機能障害を起こします。このアルツハイマー型認知症における代表的な妄想は、前述の物盗られ妄想です。
認知症の妄想への対応方法
妄想の症状が出現した場合、どのように対応するべきなのでしょうか。適切な対応をしないと、余計に症状を悪化させてしまう可能性が存在。ここでは、認知症による妄想への対応方法を解説していきます。
否定をしない
妄想の症状が出ている方に対し、否定的な態度を取ってはいけません。否定をすることで、認知症の方が不安や焦り、恐怖心を感じてしまうからです。認知症の方の妄想は、自尊心を守るために起きていることもあり、他人から否定をされることで自尊心を傷付け、失敗体験にも繋がってしまいます。
話に共感しながら聴く

否定的な態度は取らず、話に共感し傾聴することが大切。妄想の症状であると分かっていても、まずは話に耳を傾けましょう。
認知症の妄想は不安からきていることが多いため、安心感を与えるような寄り添った対応が必要なのです。
専門家へ相談する
妄想でどうしても手に負えない場合は、専門家まで相談することが必要。医療機関、あるいは介護の窓口となる「地域包括支援センター」が利用できます。ひとりで抱えこむと認知症の方だけでなく、家族と介護する人の心や身体まで悪化。深刻な状況に陥る前に、支援を求めることが重要です。