脳出血とは?余命はどのくらい?症状・原因・治療方法を解説
「脳出血」は、脳の血管が破裂し、脳組織内やその周辺に血液が漏れ出る状態です。脳卒中の一種であり、脳の機能に重大な影響を及ぼすことがあります。また、再発リスクが高く、生存率も低い疾患です。脳出血は、高齢者に多い疾患のひとつとして知られていますが、若い世代でも見られます。原因などを知っておくことで、予防していきましょう。脳出血の原因、主な症状、リハビリ方法、自分でできる予防方法について、詳しく解説します。
脳出血とは

脳出血とは、脳の血管が破れることで、脳内に血液が流れ出てしまう病気のこと。脳の微細な血管に、血圧が高くなったことによる影響や老化によって生じた、多数の小さな瘤(こぶ)が要因です。このような瘤が、血圧の急激な上昇時に連続して破れると、脳内に血液が溜まり、血腫(けっしゅ)という血の塊が形成。
若い世代での脳出血は、「脳動静脈奇形」や一般的な血液疾患などが原因と言われています。
脳出血の症状は出血部位によって異なる

脳出血は、脳内の動脈が何らかの要因で裂けてしまい、血が脳内に漏れ出る疾患です。この漏れた血は徐々に血腫に変わり、時間が経つと脳がむくんできます。この血腫とむくみが脳をさらに圧迫し、結果として吐き気や意識の混濁といった複数の様態が現れ、脳にさらなるダメージをもたらすのです。
脳出血は大きく分けて、①「被殻出血」(ひかくしゅっけつ)、②「視床出血」(ししょうしゅっけつ)、③「皮質下出血」(ひしつかしゅっけつ)、④「小脳出血」(しょうのうしゅっけつ)、⑤「橋出血」(きょうしゅっけつ)の5つ。それぞれの特徴を解説しましょう。
- 1被殻出血
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「被殻出血」は、最も多く発生する病態で、主な要因は管理が不十分な高血圧や動脈硬化です。「被殻」で血が漏れ出してしまうと、運動機能の障害に影響。特に、血が漏れ出した部位とは反対側の半身に、運動麻痺が発生します。また、顔の反対側に運動障害が現れることも。ただし、麻痺の程度は漏れ出た血の量、範囲によって異なり、感覚障害やほとんど様態が現れない場合もあります。
左半球の被殻で血が漏れ出ることで、「失語症」(しつごしょう)がしばしば観察され、「運動性失語」、「感覚性失語」、またはその両方である「全失語」が出現することもあるのです。
- 2視床出血
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「視床出血」とは、脳の「視床」という部位における病態。視床は被殻の隣に位置しており、さらに「脳室」という部位にも接しているため、漏れ出た血が脳室まで広がってしまう可能性があります。視床出血の重症度には、I~Ⅲまでの分類が存在。具体的に、視床のみに血が漏れ出ていて局在的な場合はⅠ、内包部へ進行している場合はⅡ、そして、視床下部や中脳へ進行している場合はⅢという分類です。つまり、漏れ出ている血の範囲や進行度に応じて数字が大きくなる、ということになります。
- 3皮質下出血
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「皮質下出血」は、脳の表面部分である「大脳皮質」(だいのうひしつ)のすぐ下にある「皮質下」で発生。特に、大脳の「頭頂葉」(ぜんちょうよう)や「前頭葉」(ぜんとうよう)といった部位に発生するのが一般的です。
皮質下で血が漏れ出てしまう要因としては、高血圧だけでなく、「脳アミロイドアンギオパチー」や「脳動静脈奇形」といった血管の異常が挙げられ、漏れ出した血の部位によって様々な様態が出現。多くの患者は、突然の強烈な頭痛を感じることがあり、それに伴って意識の低下が起こることもあります。しかしながら、一度頭痛が緩和されると、様態が収まったと感じて治療を怠ってしまうことも。なお、皮質下で血が漏れ出してしまうことによって、痙攣、四肢の麻痺、失語症、片目の視野喪失などの様態が発生することもあります。しかし、他の脳出血と比べると、皮質下出血の様態は比較的軽く、回復が良好とされているのです。
- 4小脳出血
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「小脳出血」は、小脳の領域で発生する脳出血を指します。全体の脳出血の中で、約10%の頻度で見られる出血です。高血圧が主な要因として挙げられるものの、「腫瘍」や「動静脈奇形」、「静脈性血管奇形」なども、小脳出血の引き金となることも。特に高血圧による出血は、50歳以上の高齢者に多く見られます。
小脳は、身体のバランスを保つ役割を果たしているため、この領域での出血は、体のバランス感覚の喪失やめまいを誘引。バランス感覚の喪失では、様態が重たい場合には、座っていることもできないほどになり、介助が必要です。
また、めまいに伴って吐き気や嘔吐が起こることも。小脳出血の方では、ベッドから起きたり、頭の位置を変えたりするだけで、めまい、吐き気、嘔吐などの症状が現れます。特に出血が拡大すると、意識障害が伴うことがあり、深刻な場合には命の危険も考えられるのです。
- 5橋出血
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「橋出血」は、脳の中心部に位置する脳幹の一部である「橋」で起こる出血のこと。脳幹は、「中脳」、「橋」、「延髄」(えんずい)の3つから成り立っており、これらはそれぞれ独自の機能を持ちつつ、連携して体の基本的な機能を支えているのです。
橋は多岐にわたる重要な役割を担っています。具体的には、脳神経の通路としての役割から、運動や感覚の制御、呼吸と心拍の維持、覚醒と睡眠のサイクル管理まで。橋出血は脳出血全体の約10%を占め、脳幹にかかわる出血の中では最も多く見られます。
橋出血のような極めて重要な部位での出血は、患者にとって深刻な様態の原因です。橋出血が引き起こされると、意識の低下、昏睡、瞳孔の収縮、体温の急上昇、片側または両側における四肢の麻痺、感覚異常、血圧の上昇、呼吸の異常、歩行時によるバランスの悪さ、手足の動きに関する機能障害などが出現します。
脳出血の原因

脳出血の主な要因として挙げられるのは、高血圧です。血圧は、心臓から全身へ血液が送られるときに動脈の内壁にかかる圧力のこと。そして、この圧力が慢性的に高まる状態が、高血圧と定義されています。
2019年(令和元年)に日本高血圧学会が公表した「高血圧治療ガイドライン2019」の治療目標によれば、75歳未満の方は130/80mmHg以下、75歳以上の方は140/90mmHg以下を目指すことが推奨されています。これらの目標を達成することにより、脳出血や他の脳卒中におけるリスクを減少することが可能となるのです。
脳出血の検査・診断
CT検査とMRI検査は、脳出血の医療診断において欠かせない画像診断法です。これらはそれぞれ異なる特性と利点を持ち、病状や診断の目的に応じて選ばれます。
CT検査
CT検査は、新しい出血が白く表示されるため、脳出血の診断が容易です。また、MRI検査に比べて検査手順が簡単で、短時間で終わるというメリットも。脳出血の初期段階における診断には、CT検査が特に適しています。
MRI検査

MRI検査は、高感度でより詳細な画像を提供。血管をはっきりと撮影することができるため、「脳動脈瘤」や動静脈奇形などの出血の要因となる部位の確認が可能となります。さらに、「トラクトグラフィー」という技術を利用して、神経繊維の走行を可視化することも可能。病因の特定やより詳しい情報が求められる場合には、MRI検査が選ばれます。
脳出血の治療方法

脳出血の初期段階では、手術による血腫の取り除きや、降圧剤による血圧管理が主な治療方法として行われます。脳出血の状態が中等度で、回復の可能性が高い場合は、手術が選択されることが一般的。一方、軽度や非常に深刻なケースでは、薬物療法が行われます。
これらの治療方針は、患者の年齢、病歴、血の凝固状態、患者や家族の希望を考慮し、総合的に決定されるのです。
- 1外科手術
- 外科手術の主な目的は、脳内の血腫を減少させ、脳へのダメージを最小限に抑えること。ただし、すでに失われた脳機能を取り戻す手法は、今のところ存在しません。
- 2薬物療法
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薬物療法では、出血を抑制し、血圧や脈拍を安定させることが重要です。特に血圧が非常に高い場合、降圧剤を使用し、血圧調整をすることが求められます。しかし、薬剤で血圧調整を行うのは非常に難しく、内服を開始したからといって、すぐに血圧が安定するわけではありません。なお、薬物療法は、脳周辺のむくみ、「胃潰瘍」のリスクも考慮しながら、行われることが一般的です。
- 3リハビリテーション
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リハビリテーションを通じて、脳の再生能力を活かすことで、多くの患者が意識や機能の回復を目指します。一般的に、損傷した脳細胞は回復しませんが、リハビリテーションを行うことで、これまであまり使われていなかった脳細胞が活性化することも期待できるのです。例えば、右麻痺が出た場合「利き手交換」として、左手を使えるようにすることなどが当てはまります。
脳出血を予防する方法
脳出血の一般的な要因は高血圧です。そのため、脳出血を予防するためには、血圧を上げすぎないことが重要。ここでは、主な予防法についてまとめました。
健康診断を定期的に受け、自分の血圧を把握する
高血圧の診断や治療において、家庭での血圧測定、血圧手帳への記録は大切なポイントです。
血圧には2つの数値があり、上の数値は「収縮期血圧」、下の数値は「拡張期血圧」と称されます。日本高血圧学会が2019年(令和元年)に公表した「高血圧治療ガイドライン」によれば、収縮期血圧が140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上の場合、それを高血圧と定義。治療時に目指す血圧の目標は、130/80mmHg未満とされています。
病院での血圧測定は、患者の緊張から血圧が高めに出ることも。このような様態を「白衣高血圧」と言い、病院内でのみ、血圧は上昇します。家庭での測定に基づく高血圧の診断基準は、135/85mmHg以上、治療の目標は125/75mmHg未満です。したがって、自宅での測定とその記録は、正確な高血圧の診断や管理に不可欠。しかし、高血圧の治療目標は患者ごとに異なることがあります。
年齢や喫煙の有無、他の持病の状況などによって、推奨される目標が変わることがあるので、治療の目標については医師としっかり相談することが大切。過去に脳出血を経験した方は、再発を防ぐために、130/80mmHg未満、家庭での測定では125/75mmHg未満に血圧を保つことが推奨されています。これは、再発予防におけるひとつの基準です。
塩分を控えた食生活にする
しょうゆや味噌といった調味料の塩分摂取には注意していても、加工食品にも塩分が多く含まれているということを見落としていることは少なくありません。
例えば、食パン1枚には約0.8gの食塩が含まれています。加工食品は、味が濃くなくても、保存のためや風味を出すために塩分が多く使われているからです。したがって、加工食品を選ぶ際は、パッケージに記載されている成分表示をよく確認することが大切。塩分が多く含まれる加工食品としては、漬物、佃煮、かまぼこ、ハム、たらこ、ウインナー、塩辛などです。これらの食品を日常的に摂取している場合、その頻度を減らすだけでも、日々の塩分摂取量を大きく減らすことができます。
飲酒を控える
飲酒は適量であれば健康に良い影響を与えることが知られていますが、過度になると健康リスクを増加させる危険があります。特に、アルコール摂取量が週に300~449gを超えると、脳卒中のリスクを高めることに。「脳梗塞」のリスクは、飲酒量の増加に伴って大きく変わることは少ないものの、飲酒量に比例してリスクが増加傾向です。日常的に飲酒する人の中でも、1日3合(約540ml)以上飲む人は、たまにしか飲まない人に比べて、脳出血のリスクが2倍程度増加。さらに、過度の飲酒が原因で十分な睡眠を取れない場合、そのリスクはさらに増大します。
喫煙を控える
喫煙は脳卒中の大きなリスク因子であり、高血圧に次いでリスクが高いと言われています。特に、「くも膜下出血」や脳梗塞の発症リスクを大きく上げることが指摘。具体的に、喫煙者における脳卒中の発症リスクは、非喫煙者に比べて2~3倍高くなると言われています。しかし、禁煙を開始すればそのリスクは次第に低下。なお、非喫煙者と同じリスクレベルまで低下させるためには、禁煙を始めてから約2年の時間が必要です。
適度に運動する

脳卒中の予防には、継続的な運動が非常に有効です。日常的な運動としては、1日に30~60分のウォーキング(8,000~10,000歩)が推奨されています。
ただし、歩くだけでなく、歩くスピードや歩き方も重要です。息が少しはずむような速さで、腕を大きく振りながら歩くことで、さらなる健康効果を得ることが可能。また、ウォーキングだけではなく、足腰を鍛える運動も脳卒中の予防に役立つのです。さらに筋肉を強化することで、全体的な体力の向上や心血管系の健康維持にも繋がります。週に1回の集中的な運動も効果的ですが、毎日の継続的な運動習慣が重要です。
脳出血の余命はどのくらい?

脳出血後の平均余命は、発症後の生存期間における予測値を指します。脳出血の5年生存率は約26%と言われており、これをもとに、平均余命は10~12年と推定。しかし、これはあくまで一般的な数値であり、実際の余命は患者の健康状態や治療の進行度によって変動します。
特に注意すべき点として、脳出血を一度経験した人は、再発のリスクが高まることです。再発すると、さらに多くの脳領域が影響を受ける可能性があり、生存率の低下に繋がることが考えられます。
そのため、早期の治療とその後の継続的なケアが非常に重要。早期に治療を受けることで、脳の損傷を最小限に抑え、機能の回復を促すことが可能です。
また、適切なリハビリテーションや生活習慣の見直しを行うことで、再発の予防、「生活の質」の向上にも繋がります。治療の開始が早ければ、脳出血後の「生活の質」や余命をより良くすることが期待できるのです。
まとめ
本記事では、脳出血の症状や予防方法について解説をしました。脳出血とは、脳の血管が破れて、血液が脳内に流れ出てしまう病気です。高齢者だけではなく、若い世代においても、脳出血を経験することがあります。脳出血の主な原因は、血圧が普段から高くなっていることです。自分の血圧を把握して、医師と相談しながら、生活習慣を見直していきましょう。