老人ホーム・シニア住宅の歴史 – 昭和から令和の最新ケアまでを解説
超高齢社会を迎えている日本において、高齢者の生活をサポートするための老人ホーム・シニア住宅には、多種多様なものが存在しています。戦後の弱者救済という視点から、徐々に数と種類を増やしていった老人ホーム・シニア住宅。現在では、人手不足などの問題も抱えています。「老人ホーム・シニア住宅の歴史 – 昭和から令和の最新ケアまでを解説」では、高齢者向け施設の歴史、高齢者社会と介護の現状、老人ホーム・シニア住宅の今後の展望についてもご紹介しましょう。
高齢者向け施設の歴史
戦後の弱者救済の視点から高齢者向け施設が誕生
第二次世界大戦の終結後、日本社会は復興に向けて動き出しましたが、国内には貧困と孤立が蔓延していました。特に高齢者は、戦火による保護者の喪失や経済的打撃を受けた方が多く、生活に困窮する高齢者も続出。これらの問題により、戦後の日本政府は経済復興の課題として、社会的セーフティネットが必要な方々を支援することが急務となりました。
復興が進むにつれて、日本人の家族構造も大きく変化。従来のような家族全体で高齢者を支えるという仕組みの維持が困難になり、代わりとして高齢者向け施設が台頭し、社会全体で重要なものになっていったのです。
戦前から、高齢者のみを対象とした施設「養老院」は存在していましたが、公的な機関ではなく、規模的には小さな施設でした。そのため政府は戦後の1946年(昭和21年)に旧生活保護法を施行。養老院は「保護施設」として公的に認定され、1950年(昭和25年)には、「養老施設」として改称されました。1963年(昭和38年)には老人福祉法が施行、「老人ホーム」として再び改称され、本格的な体系化が行われたのです。
戦後の弱者救済という視点と社会構造の変化、福祉制度の整備によって登場した高齢者向け施設は、高齢者の生活の質を向上するために、今もその重要な役割を担っています。
国土交通省や民間企業が参入

戦後のベビーラッシュにより人口は増加し、日本の経済状況は回復していきました。一方で、高齢者人口の大幅な増加によって、高齢者向け住宅や介護サービスの需要も急激に増加。
地域振興・インフラ整備・住宅政策などの役割を担う国土交通省は、高齢者向け施設の充実が「まちづくり」にとって不可欠であると捉え、土木建築や各種インフラ整備によって、日本全体に利益をもたらすような政策を施行しました。バリアフリーなまちづくりを意図した高齢者向け施設の発展が、国民一人ひとりだけでなく、国にとっても大切な行政、福祉政策の一環であることが分かるのです。
さらに、ビジネスチャンスと捉えた多くの民間企業が、高齢者向け施設の分野に参入。大きな利益を生むチャンスであるため、多数の民間企業がそれぞれ特徴ある高齢者向け施設を経営していきました。そのために数は増え、種類やサービスも多彩なものとなっていったのです。
高齢者社会・介護の現状
超高齢社会への突入

2021年(令和3年)において、日本の総人口は約1億2,550万人で、その内、65歳以上の方の割合は、3,621万人。これは全体で28.9%を占める割合となっています。
高齢化率が14%だと高齢社会、21%だと超高齢社会として定義されるのですが、2021年(令和3年)に日本の高齢者率は「28.9%」を占めているため、日本社会は「超高齢社会」という立ち位置に分類されるのです。
日本の総人口の3割を高齢者が占めているのには、2つの要因が挙げられます。ひとつ目は、医療制度が高水準であること。2020年(令和2年)時点での平均寿命は男性で「81歳」、女性で「87歳」となっており、非常に長い平均寿命と言えます。2つ目が「少子高齢化」。合計特殊出生率(15~49歳の女性の年齢別出生率を合計したもの)は1947年(昭和22年)で4.32を記録していましたが、2020年(令和2年)には過去最低の1.33という水準まで落ちたのです。
これらの要因によって、今の日本の総人口は減少傾向と言えます。15~64歳までの生産年齢人口も減少し続けているため、社会福祉、人材不足など経済を低迷させる問題が発生しているのです。
介護業界の人材不足
高齢者の人口が増えると、介護・福祉分野に関する需要も増大。老人ホーム、シニア住宅などで働く介護士の需要も年々増しています。
一方で、2025年(令和7年)には約37.7万人の介護人材が不足すると言われており、深刻な事態です。生産年齢人口の働き手が不足すると、高齢者が高齢者を介護する「老老介護」という状態が加速。これは65歳以上の方が、自分と同じ年齢以上の方を介護しているという状態を指します。
さらに、認知症の高齢者を高齢者がケアするという「認認介護」も発生。本来なら社会的に守っていくべき高齢者達を、国や社会が支援しきれていないという実情が、今の日本を取り巻く大きな問題となっているのです。
社会保障制度の圧迫
日本は世界的に長寿の国ですが、少子化と超高齢化により、社会保障制度を含む福祉の分野が緊迫。2025年(令和7年)には、国民の5人に1人が75歳以上の後期高齢者となる問題が控えています。加えて、3人に1人が65歳以上になると予想されており、社会保障制度にかかわる財政圧迫が深刻です。
生産年齢人口が減少している中、社会保障費にかかる税収の確保は急務となっており、政府は、この問題に対応することが求められています。
老人ホーム・シニア住宅の今後の展望
多様な住まいの選択肢の拡大
今後、さらに増えていく高齢者のために、老人ホーム・シニア住宅以外の新しい形態のサービスも求められています。共同生活型のコミュニティ、グループホーム、高齢者に特化した賃貸マンション・アパートなどを増やし、高齢者ごとの要望に対応した住まいを提供することが重要。
また、貧困に苦しむ高齢者のために、費用を抑えた高齢者向け住宅を提供することも大切です。さらに、現状不足している介護士の数や、高齢者向け住宅の数も増加させることが、企業や政府に求められている課題と言えるでしょう。
テクノロジーの有効活用
人工知能やロボット技術を活用した、テクノロジーの有効活用も課題。重労働とされる介護士の職場にロボットを導入することによって、介護士の負担を軽減することが可能です。
例えば、寝たきり状態の高齢者を抱えての入浴や、身体介護をするのは相当な筋力が必要なため、ロボット技術の支援が切実に求められています。加えてこれからの時代には、人口知能を用いた高齢者の健康ケア、生活支援のためのモニタリングなど、最新技術を活用した新しい老人ホーム・シニア住宅の形態も望まれるでしょう。
地域社会との連携
高齢者の社会的な孤立は、認知症などの病気を深刻化させる原因となり得るため、まずは高齢者の生活環境を整備することが期待されています。老人ホーム・シニア住宅が、より地域社会と連帯することで、高齢者の加齢による様々な困難や病気から高齢者を護り、予防的ケアなども強化できるのです。
まとめ
老人ホーム・シニア住宅は、今後も、その数と種類が増えていくことが予想されます。介護にかかわる人材の不足については、政府と企業が労働環境や就労条件を適正に設定し、現場で働く人々のニーズに応えながら人材を確保していくことが必要です。また、これからの老人ホーム・シニア住宅は、高齢者と地域社会との結びつきをより密接に構築することで、高齢者を社会的孤立から護るセーフティネットとしての役割を、大きく担っていくでしょう。