ロコモティブシンドロームとは?症状・原因からチェックポイント、予防に効果的な運動も解説
「ロコモティブシンドローム」は、加齢とともに筋力が衰えたり、関節や脊椎の疾患、骨粗しょう症などにより運動機能が低下したりなど、高齢者によく見られる状態のことです。高齢化が進む日本において、ロコモティブシンドロームは特に注目されており、要介護や寝たきりになるリスクが高まることで懸念されています。運動器の障害により、立ち上がる、歩くなどの基本的な動作が困難になることが、ロコモティブシンドロームの主な特徴です。ロコモティブシンドロームの概要から原因、予防方法などを解説していきます。
ロコモティブシンドロームの概要

ロコモティブシンドローム(運動器症候群)は、運動器(関節、骨、神経、軟骨、筋肉、靭帯など身体を動かすのに必要な組織)の障害を原因とした、立ち座りや移動するといった運動能力の低下を意味します。
ロコモティブには「運動の」という意味があり、ロコモティブという言葉からロコモティブシンドロームは作られました。略して「ロコモ」と呼ばれることもあります。ロコモティブシンドロームは、特に高齢者に見られる症状です。
ロコモティブシンドロームの予防の目的は健康寿命と介護予防
ロコモティブシンドロームは2007年(平成19年)に「日本整形外科学会」により提唱されました。ロコモティブシンドロームが提唱された理由は、健康寿命を延ばすこと、介護予防の取り組みを促進することです。健康寿命は、日常生活を制限されることなく、自立度の高い生活を送られる期間。
介護予防は、要支援・要介護状態を予防するための取り組みを意味します。日本の人口構造は少子高齢化です。平均寿命は年々延びており、長寿国家となっています。
さらに、平均寿命だけでなく健康寿命も長い傾向。これからも、平均寿命は延びる可能性があり、高齢者が質の高い生活を長く続けるためには、平均寿命と健康寿命の差を縮める必要があります。要介護状態を防ぐことを目的として、介護予防を目的にロコモティブシンドロームは提唱されたのです。
運動器疾患は要介護状態になりやすい
運動器に関係する代表的な疾患は、太ももの骨が折れてしまう「大腿骨骨折」(だいたいこつこっせつ)、「腰部脊柱管狭窄症」(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)、「腱板断裂」(けんばんだんれつ)、「変形性関節症」など。
このような運動器疾患が原因で要介護状態になる人の割合は、全体の約2割に及びます。特に女性は運動器疾患により要介護状態となってしまう人が多い傾向です。
ロコモティブシンドロームに関係のある疾患
高齢者に発症しやすい腰椎、膝関節、骨に関する疾患は、ロコモティブシンドロームにつながる可能性が高いと言われています。代表的な疾患は、「変形性膝関節症」、「変形性腰椎症」、「骨粗しょう症」などです。
変形性膝関節症の主な症状は、膝部分の痛み。痛みの影響から運動機会の低下につながる懸念があります。変形性腰椎症の主症状は腰痛。この疾患以外にも腰痛を訴える人は多く、腰痛が原因で仕事や生活に支障が出ることも少なくありません。
また、骨粗しょう症は骨折のリスクを高めます。特に高齢者には、大腿骨近位骨折、脊椎圧迫骨折の発生件数が多く、これらの骨折は歩行の妨げとなってしまうのです。
ロコモティブシンドロームを原因とする病気
ロコモティブシンドロームが原因で新たな病気につながることもあります。ロコモティブシンドロームにより活動量が低下することで、骨粗しょう症になることも。骨粗しょう症になると骨は弱くなるため、新たな骨折が起こりやすくなるのです。
また、活動性が低下し、刺激の少ない生活をしていると、認知機能が低下し認知症になることも考えられます。さらに、ロコモティブシンドロームが引き起こすのは病気だけではありません。生活に介護を必要とする要介護状態や寝たきりになるリスクもあります。
ロコモティブシンドロームの原因

ロコモティブシンドロームの原因は、加齢、不規則な生活習慣による筋力やバランス機能の低下、骨、関節などを痛める運動器疾患です。
ロコモティブシンドロームは若い人でもなる可能性はありますが、加齢により身体能力が低下している高齢者の方が、発生する可能性は高いと言えます。
- 1筋力の低下
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普段行っている日常的な動作で、例えばベッドから起きる、座る、立つといった基本的な動作、歩行にも筋力が必要です。特に足腰、体幹の筋力は、これらの動作を行う上で非常に重要。歩行や運動の機会が乏しいと、足腰、体幹などの重要な筋力が低下してしまいます。高齢者になると運動機会は減少するため、筋力の低下が起こりやすくなるのです。
- 2バランス感覚の低下
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バランス感覚の低下もロコモティブシンドロームの原因となります。特に、立位保持や歩行にはバランス能力が必要。
バランスを保つには、筋力や関節の可動域、適切な姿勢、平衡感覚(身体の傾き、回転を感知する能力)、深部感覚(自分の手足がどの位置にあるか、どのように動いているかを知るための感覚)など、様々な機能が必要です。
高齢者は足腰の筋力が低下しやすく、各関節に固さも出現します。姿勢は猫背で後方重心となることも。さらに、平衡感覚、深部感覚といったバランスを保つために必要な感覚も鈍くなり、転倒しないための反応が遅くなります。これらのどの機能が低下しても、バランス感覚は低下してしまう可能性があるのです。
- 3骨・関節・神経にかかわる病気
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ロコモティブシンドロームの原因は、骨や関節、神経にかかわる運動器疾患でも見られます。例えば、骨折、変形性膝関節症、脊柱管狭窄症などの運動器疾患は痛みを伴うことが多く、疼痛による歩行困難により活動性が低下。
神経症状が出現すると、手足を自由に動かせなくなる、痺れにより感覚が鈍くなるといったこともあるのです。また、運動器疾患の治療に伴い、手術、入院を必要とすることも少なくありません。
手術前や手術直後は、ベッド上で過ごすことが多く、入院生活が原因で筋力低下をきたし、歩行や立ち座りができなくなることもあるのです。
このように、骨、関節、神経にかかわる病気になると、様々な運動機能が低下するリスクもあります。他にも運動器疾患の症状による運動機能の低下だけでなく、のちの手術や入院生活により、筋力バランス、感覚が低下することで、ロコモティブシンドロームになってしまうこともあるのです。
ロコモティブシンドロームの進行

ロコモティブシンドロームが進行すると、生活の自立度は低下し、社会参加に支障が出るだけでなく、要介護状態や寝たきり状態につながってしまう恐れがあります。
一度運動器に障害が出てしまうと「ロコモティブ・スパイラル(ロコモ・スパイラル)」という負のスパイラルによって、急速に症状が進行してしまう可能性もあるのです。
ロコモティブ・スパイラルとは
ロコモティブ・スパイラルとは「運動不足」、「肥満や筋力低下」、「骨や関節の障害」、「身体活動の低下」などが繰り返される悪循環のこと。関節、骨、筋肉といった運動器は連動して働きます。そのため、どこか1ヵ所が障害されただけでも、身体の動きに支障が出てしまうのです。
身体の動きに支障が出てしまうと、転倒につながるリスクは高くなり、不十分となった動きをカバーするために、普段以上に身体が頑張ってしまいます。これらの影響により、骨や関節への負担は増加。疼痛、運動不足、さらなる運動器の障害を招きロコモティブシンドロームは急速に進行してしまうのです。
ロコモティブシンドロームの症状は、筋力低下によるバランス能力の低下、関節の疼痛、歩幅が縮小することによる歩行機会の減少、歩行困難、さらなる活動性の低下、寝たきり状態。このような段階を行き来しながら、症状は進行していきます。
関節の疼痛
筋肉の役割は、身体を動かすことだけではなく、関節に対する負担を軽減してくれます。そのため、筋力は弱くなることで、関節の保護が不十分となってしまう可能性があるのです。
筋力低下により関節が不安定になると、関節に対する衝撃の緩衝は不十分に。特に膝関節は、身体を支える上での負担が大きく、筋力が弱っていると、疼痛、変形性膝関節症につながってしまう可能性があるため、注意しなくてはなりません。
歩幅縮小による歩行頻度の低下
筋力低下、バランス能力の低下、関節疼痛によって、運動不足はさらに進行。関節の痛みは関節の動きを制限し、バランス能力が低下することで普通に歩くことが難しくなります。
運動不足による体力の低下や転倒に対する恐怖心から、歩行頻度が減ってしまい、最終的には歩行困難へとつながってしまうのです。
さらなる活動性の低下や寝たきり状態
歩行頻度の低下、歩行困難により、活動性は急速に低下してしまいます。活動性の低下はさらなる筋力低下を招き、それに伴って、バランス能力の低下、関節疼痛も加速する恐れがあるのです。
このような悪循環により、歩行だけでなく、立ち座りや起き上がりといった基本的な動作も困難となります。そして、最終的にはベッド上での生活が中心となる寝たきり状態へと進行。
1度寝たきりになってしまうと、改善は難しいため、ロコモティブ・スパイラルによる悪循環には、注意が必要なのです。
ロコモティブシンドロームのチェックポイント
ロコモティブシンドロームの診断をする上で「ロコチェック」といったチェックポイント、「ロコモ度テスト」などがあります。
ロコチェック

ロコチェックは、日本整形外科学会が発表したチェックツールです。
ロコチェックを構成しているのは、7つの質問項目。筋力や骨、運動能力が衰えていないかの判断に役立つチェックポイントです。
当てはまる項目がひとつでもある方は、ロコモティブシンドロームの疑いがあります。ロコチェックの具体的なチェック項目の内容は、以下の7項目です。
- 1片脚立ちで靴下が履けない
- 2家の中でつまずいたり、すべったりする
- 3階段を上がるのに手すりが必要である
- 4布団の上げ下ろしなど、家の中でのやや重い仕事が困難である
- 52㎏程度の買い物をして持ち帰るのが困難である
- 615分くらい続けて歩くことができない
- 7横断歩道を青信号で渡り切れない
ロコモ度テスト
ロコモ度テストは、ロコモティブシンドロームの判断をするテストのことで、①「立ち上がりテスト」、②「2ステップテスト」、③「ロコモ25」の3つで構成されています。
これらの3つを行うことで、ロコモティブシンドロームがどのくらい進行しているかを判断するロコモ度の判定をすることが可能。
ロコモ度は1~3まであり、ロコモ度1はロコモティブシンドロームが始まっている状態、ロコモ度2は進行している状態、ロコモ度3は社会生活に影響が出ている状態を意味します。以下、3つのロコモ度テストの内容です。
- 1立ち上がりテスト
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立ち上がりテストは、下肢筋力を測ります。40㎝、30㎝、20㎝、10㎝の高さから両脚、もしくは片脚で立ち上がりを実施。立ち上がりに困難がある場合は、ロコモティブシンドロームの可能性があるのです。
- 22ステップテスト
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2ステップテストは、歩幅を調べ、歩行能力を評価します。両脚を揃えた姿勢から大股で2歩歩き、この間における移動距離を測定。2回テストを行い、良かった方の値を記録します。
- 3ロコモ25
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ロコモ25は、直近1ヵ月の身体、生活状況に関する25の質問で構成されたテストです。
ロコモティブシンドロームになりやすい人

ロコモティブシンドロームは誰しもがなり得る症候群。その中でも特になりやすい人の特徴があります。順に見ていきましょう。
- 1女性
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男性よりも女性の方がロコモティブシンドロームになりやすいと言われています。
女性は、男性に比べ、靭帯や膝軟骨が弱く、ホルモンバランス、妊娠、授乳などの影響から、男性よりも骨粗しょう症になるリスクが非常に高め。これらの理由から、女性は膝の疾患、骨折を起こしやすい傾向にあり、ロコモティブシンドロームになりやすいのです。
- 2肥満・痩せすぎ
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肥満の方は、身体を支える上での負担、特に足腰への負担は大きいと言えます。肥満であればあるほど、重たい身体を足腰が支えなくてはならず、痩せている人に比べて、下半身に負担が掛かることに。
そのため、膝、腰を痛めやすくなるのです。また、肥満の人は、変形性膝関節症になりやすいと言われています。疼痛管理をしながら、「保存療法」(症状の改善、緩和を目指す治療)で治療を進めるケースがほとんどですが、手術療法を行うことも。
高齢者にとって、手術による入院は筋力低下を引き起こす原因にもなるのです。なお、痩せすぎの人は、骨粗しょう症や筋力が急激に低下する「サルコペニア」になるリスクがあります。サルコペニアはロコモティブシンドロームにつながる可能性があるため、痩せすぎないようにしましょう。
- 350歳を超えた人
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多くの人は50歳を超えたあたりから、身体の衰えが現れ始めます。筋肉、骨密度は30代から低下し、病気、怪我のリスクも上昇。自分では気付いていなくても、加齢と共に、筋力や骨は弱っているのです。特に女性の方は50歳から骨密度が急激に低下してしまう人が多くなります。
- 4運動不足の人
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ロコモティブシンドロームの原因としては、バランス能力の低下、筋力の低下など。これらを引き起こすのは、加齢だけでなく、運動不足、閉じこもりによる活動性の低下も原因のひとつです。
適度な運動を日常的に行っている人、活動性の高い人に比べ、運動不足でほとんど動かない人は、ロコモティブシンドロームになりやすいと言えます。しかし、過度な運動は逆効果をもたらすこともあるため、適切な運動量で予防をすることが大切です。
ロコモティブシンドロームの予防

ロコモティブシンドロームにならないためには、運動と食事のふたつに意識を向ける必要があります。
適度な運動、バランスの取れた食生活は、足腰の筋力維持、バランス能力の維持につながり、結果的にロコモティブシンドロームの予防となるのです。
運動で予防
筋力、骨は、負荷が掛からないと丈夫にはなりません。運動をすることで、筋肉を使う機会や骨に負荷を与える機会になります。さらに、運動はバランス能力の維持、向上、認知機能の維持にも期待ができるのです。
ロコモティブシンドロームを予防するためトレーニングには、「ロコトレ」があります。ロコトレは、スクワットと片脚立ちの2種類から構成。ロコトレを行うことで、筋力やバランス能力の向上につながります。それぞれの方法について見ていきましょう。
- 1スクワット
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スクワットは、足腰の筋力を鍛えることができます。スクワットを行う際、まずは姿勢を意識しましょう。足を肩幅よりも少しだけ開き、つま先を30度ほど開きます。
バランスが取りにくい方は両手を前に伸ばし、バランスを取りやすい姿勢を取りましょう。姿勢を作ったら、膝を曲げてお尻をゆっくりと下げていきます。膝の屈曲角度が90度を超えない程度まで腰を下ろすことが肝心。
このとき、膝がつま先より前に出ないように意識することがポイントです。その後、ゆっくりと膝を伸ばし、もとの姿勢に戻ります。この動作を5~10回、1日に2~3セットを目安に行いましょう。
スクワットが難しい方は、テーブルや手すりに手をついて行う、椅子からの立ち座りを行うなど、工夫するとスムーズ。また、体力が続かない人は、少ない回数から始めるなど、自分の身体に合わせて負荷量を調整しましょう。無理をしてケガをしないことが大切です。
- 2片脚立ち
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片脚立ちは両脚立ちに比べ、バランスを保つのが難しく、バランスを保つために、足腰の筋肉が働き、筋力の向上につながります。
片脚立ちを行う際、まずは安全に配慮して、手すりやテーブルなど、支えがある場所に移動。環境が整ったら、姿勢をまっすぐにして、片脚を挙げてバランスを取ります。約1分を目安に、片脚立ちを持続しましょう。1分経ったら、今度は逆足で行います。
片脚立ちはバランスを保つのが難しく、転倒のリスクが高め。そのため、十分に安全に配慮して、無理のない範囲で行うことが大切です。片脚立ちが難しい方は、片手もしくは両手で手すりなどを掴み、行うことをおすすめします。
食事で予防
筋肉、骨を丈夫に保つためには、食事にも注意を向ける必要があります。ロコモティブシンドロームの予防として、まずは5大栄養素を意識しましょう。
5大栄養素は、炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル。これらの栄養素を毎日バランス良く摂取することが重要です。筋肉を強くするためには、タンパク質が必要。魚、肉、卵、大豆製品にタンパク質が多く含まれています。
また、筋肉を動かすには、タンパク質だけでなく、炭水化物、脂質、ビタミンの摂取も肝心です。さらに、ビタミン、ミネラルも重要。カルシウムの摂取も意識しましょう。
カルシウムが不足していると、骨粗しょう症になるリスクは高まります。カルシウムが多く含まれているのは、牛乳、チーズなどの乳製品、小魚、大豆製品です。カルシウムを効率良く摂取し、より丈夫な骨を形成するには、ビタミンD、ビタミンKの摂取も大切です。
ビタミンDは、サケ、イワシ、アンコウの肝などに多く含まれています。ビタミンKが多く含まれる食品は納豆。丈夫な骨を保つために、これらの食品の摂取を意識しましょう。