高齢者の健康・ヘルスケアの現状と課題|健康維持の方法・取り組みも解説
日本社会の高齢化は深刻であり、人口の約3分の1が65歳以上であるとされています。様々なケガや病気のリスクが上がる高齢者は、健康を維持するための予防や対策、健康を害した際の対処方法を理解しておくことが重要です。高齢者が可能な限り健康に過ごしていくための考え方、対処方法、利用できる介護保険などのサービスについて詳しく解説します。
高齢者の健康・ヘルスケアの現状と課題

高齢者とは、65歳以上の方を指し、65~74歳までの方を「前期高齢者」、75歳以上の方を「後期高齢者」と呼びます。
日本では、人口全体における高齢者の割合は約29.0%。人口の約3分の1にあたる約3,624万人が高齢者ということになります。
また、要介護認定を受けている高齢者の数も増加傾向に。内閣府が発表した「令和5年高齢社会白書」によると、日本に住む高齢者のうち、約24.6%の人が「健康状態は良くない」と回答しました。
これらのデータから、高齢者の数が増えると同時に、要介護者の数も増加していくことが考えられます。要介護者の増加や健康状態の悪化は、年々増加している介護保険料や健康保険料の増額を招き、働き世代への負担が大きくなる原因に。また、要介護認定者の数に対して、介護福祉士やケアマネジャー、介護サービスを提供する事業所の不足なども懸念されます。
これらの問題を解決するために、高齢者が健康で自立した生活を送る社会を目指すことが重要なのです。
健康な高齢期を迎えるために

2023年(令和5年)における「高齢者白書」の調査結果では、1年間に社会活動(スポーツや地域行事など)に参加した方のうち、「健康状態は良い」と回答した方は約39.4%。「健康状態は良くない」と回答した方は、約15.2%となりました。これに対し、社会活動に参加しなかった方で「良い」と回答したのは約21.9%、「良くない」と回答したのは約34.6%という結果に。このことから、高齢者が健康に過ごすためには、運動や社会活動へ参加することが必要であると言えます。
また、厚生労働省の発表した「令和4年 国民生活基礎調査の概況」によると、高齢者に介護が必要となってしまう原因として最も多いのが、「認知症」であると示されました。身体機能の低下、ケガや病気のない方でも、認知症によって認知機能が低下し、生活がままならなくなってしまった場合には、監視や支援、介護が必要不可欠です。
認知機能は、外出や運動、人とのコミュニケーションの機会などが減り、脳への刺激が少なくなることで、さらに低下しやすくなります。身体能力の低下、脳の機能低下を防ぐためにも、活動的になることが重要です。
人の身体は高齢になるつれ、筋肉が衰えたり感覚が鈍くなったりします。運動や外出を頻繁に行う方であれば、身体機能低下の予防に繋がりますが、疲れやすさや自信のなさから、積極的に活動することが億劫になってしまう方も。やがて、運動に対して消極的になることで、ケガや病気を招きやすくなってしまうのです。
介護が必要にならないように予防を心がける
高齢者が要介護状態にならないために重要なのは、「予防」です。高齢になればなるほど、筋力など活動に必要な能力は衰えやすくなります。ケガ、病気を発症したあとや、筋力が低下して動けなくなってから努力するのではなく、そのような状態にならないように、日頃から心がけることが肝心なのです。
介護予防の一環として、各地方自治体では「介護予防教室」、「集団体操」などを開催しています。これらの催しでは、理学療法士や作業療法士といった、リハビリテーションの専門家が参加し、介護予防に有用な知識、技術を地域の方に提供。リハビリテーションは本来、ケガや病気をした方がもとの生活に戻れるように、筋力の訓練や日常生活の練習を行うものです。しかし、高齢化社会が進む日本の現状から、リハビリテーションを介護予防のために提供する取り組みが開始しました。
また、介護予防への取り組みは、多くの自治体で頻繁に開催されており、運動の機会を得るとともに活動性を広げる場として有効的です。開催する場所、リハビリテーションの内容は、住んでいる地域の役所や「地域包括支援センター」で紹介されることが多いため、興味のある方は調べてみましょう。
健康を損なう原因のひとつ「フレイル」とは?
フレイルとは、「健康な状態と介護が必要な状態の中間」を指し、「虚弱」状態であることを意味する言葉です。加齢によって身体機能が低下し、徐々に活動性が低下してきた方は、このフレイルに当てはまりやすくなります。
フレイルは、単なる身体機能の低下を指す言葉ではなく、精神面の弱化や社会参加に対して消極的になることも意味。これらは①「身体的フレイル」、②「精神・心理的フレイル」、③「社会的フレイル」として分類され、すべてのフレイルに当てはまる方や、いずれかひとつに当てはまる方など様々です。
- 1身体的フレイル
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身体的フレイルは、歩行や階段昇降などの移動する能力が衰えた状態である「ロコモティブシンドローム」、加齢により筋力が低下してしまう「サルコペニア」の状態にある方が当てはまります。
ロコモティブシンドロームは、足腰の筋力や体のバランスを保つ能力の低下、骨折や関節の変形などにより、自分で移動する能力に問題が生じた状態です。一方、サルコペニアは移動する能力の低下がなくとも、筋力の衰えや筋肉が細くなった状態を指します。筋力の衰えと身体機能の低下は、外出や運動の意欲を損ない、要介護状態を招くことに繋がるのです。
- 2精神・心理的フレイル
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精神・心理的フレイルとは、認知機能が低下し始めた状態や、環境の変化、加齢による自信の低下から「うつ」になりかけている状態を指します。
加齢に伴う脳機能の衰え、外出の頻度や人とのコミュニケーションの機会が減るなどの理由によって、認知機能が低下。精神・心理的フレイルは、日常生活は一通りこなせるものの、物忘れ、意欲の低下などが現れるため、放置すると要支援・要介護状態となってしまう場合があります。
また、パートナーを亡くすなどの環境の大きな変化や、自分の体がうまく動かせなくなってくることから自信を喪失し、うつ傾向に陥った方も注意が必要です。
- 3社会的フレイル
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社会的フレイルは、加齢による社会参加の機会が減った方、経済的な理由から活動性が低下した方に当てはまります。様々な事情で一人暮らしとなった方、外出の意欲が減ったり、サークル活動などに参加しなくなったりした方は、社会的フレイルの状態であると言えるのです。
社会的フレイルは、身体的フレイル、精神・心理的フレイルと違って、自分の身体や心へ反映されることが少ないため、気が付きにくいことも。しかし、社会的フレイルの状態が続くと身体的フレイル、精神・心理的フレイルの原因となり、結果的に要介護状態へと近付くリスクが高くなるのです。
フレイルの予防に大切な「栄養」
フレイルを予防するには、運動と社会参加だけではなく、「栄養」を摂ることも大切。特に高齢者にとって重要となる栄養素が、「たんぱく質」です。たんぱく質は筋肉を作るために必須の栄養であり、不足すると筋肉がどんどん痩せていってしまいます。筋力を付けるために運動を頑張ったとしても、たんぱく質が不十分では筋肉が付きません。
たんぱく質が含まれている肉や魚、卵、ヨーグルトや豆乳などを積極的に取り入れましょう。また、たんぱく質を多く含んだ食品や飲料が販売されているため、たくさん食べることができない方でも摂取しやすくなっています。
高齢者が介護を必要とする病気ランキング
日本において介護が必要になる病気ランキングは、以下の通りです。
- 1位 認知症
- 2位 脳血管疾患(脳卒中)
- 3位 骨折・転倒
- 4位 高齢による衰弱
- 5位 関節疾患
この他には心疾患、悪性新生物(がん)、糖尿病、呼吸器疾患などが挙げられますが、5位の関節疾患と6位の心疾患の割合には、2倍もの差があります。1~5位までのケガや病気が、いかに高齢者にとって予防するべきものかが、示されていると言えるのです。
第1位 認知症
要支援・要介護の原因となるもので最も多いのが認知症。認知症は要介護認定のうち、要介護1~5の方に非常に多く、日常生活における支援や協力が欠かせません。
認知症の方は必ずしも身体機能の低下、他のケガ・病気を伴っているわけではなく、年齢相応に動ける方もいます。しかし、判断力や記憶力の低下だけではなく、認知症のタイプによっては幻覚、被害妄想などの症状が現れるため、安全に日常生活を送ることが困難に。また、普通に動くことができるため、徘徊や危険な行動をしてしまうこともあるのです。
第2位 脳血管疾患(脳卒中)
脳血管疾患(脳卒中)は、脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳の血管が破れて起こる「脳出血」と「くも膜下出血」の総称です。脳血管疾患も要介護となる原因で、特に要介護4~5に認定される方は、認知症よりもはるかに脳血管疾患が要介護の大きな原因となっています。
脳血管疾患を発症した方は、侵された脳の部位や程度、出血、血栓症などの原因によって症状が様々ですが、左右の半身が麻痺し、運動障害や感覚障害に陥る「片麻痺」が最も高い割合で発生。片麻痺が生じた方は、手足がうまく動かせなくなることで、移動や身の回りのことが自分で行えなくなったり、言葉をうまく発せない「言語障害」に陥ったりするため、介護を要する場合が多いのです。
脳血管疾患(脳卒中)は、発症時間を置かずに適切な処置を施すことや、麻痺や障害が生じてもリハビリテーションをしっかりと行うことで、ある程度は回復します。しかし、高齢者の場合、もともとの身体機能の低下、認知機能の低下、その他の持病などと相まって、後遺症が強く残る可能性が高くなる傾向に。車椅子の使用や食事、入浴の介護をはじめ、要介護度が重度の場合には、寝返りを介助して床ずれを防ぐなど、付きっきりの介護が必要になることも考えられるのです。
第3位 骨折・転倒
転倒は高齢者に頻発するケガの原因であり、軽く転んだだけでも骨折する場合があるため、注意が必要です。また、加齢に伴い、骨密度が減少する「骨粗しょう症」を引き起こしやすくなります。この症状は、特に閉経後の女性に多く、ホルモンバランスの関係で骨の中がスカスカになってしまうのが特徴です。
脆くなった骨は、転倒した際の衝撃で折れやすくなるだけでなく、重度の場合には、咳、くしゃみ、床に座った衝撃などで、背骨や肋骨を骨折する方もいます。さらに転んだ際、頭を守るための防御反応として、手を床に着いた結果、手首を骨折することもあるのです。
第4位 高齢による衰弱
高齢による衰弱とは、フレイルの状態と、フレイルが進行して介護が必要になった状態を指します。大きなケガや病気をしていない方でも、体の動きが鈍くなってきたり、以前は簡単に行えていた日常生活の動きが難しくなってきたりと、身体機能や精神・心理機能の低下を自覚する方は多い傾向です。
しかし、症状に気付いていても、そのまま放置していると、身の回りのことがひとりで行えなくなるだけではなく、社会性も低下、徐々に寝たきりや閉じこもりに近付いてしまい、介護がなければ生活ができなくなることも。高齢による衰弱が原因で介護を要する方は、本人と家族の努力次第で要介護度が軽くなったり、自立していた頃の生活に近付いたりする場合もあります。
第5位 関節疾患
関節疾患には、加齢に伴って関節の軟骨がすり減って起こる「変形性関節症」、肩関節や股関節の根元が栄養不足で腐ってしまう「骨頭壊死」(こっとうえし)などがあります。特に高齢者に多いのは、膝関節や股関節の変形であり、毎年、多くの方が外来治療や手術による人工関節への入れ替えを行っているのです。変形が重度になると、関節をうまく動かせなくなり、歩行や階段昇降、しゃがみ込みなどが行えなくなります。また、著しく変形した関節を支えるために筋肉もこわばり、強い痛みを伴うこともあるのです。
なお、「慢性関節リウマチ」も重篤な関節疾患として挙げられます。慢性関節リウマチは、様々な関節に症状が出ますが、特徴的なのは手指の変形であり、熱を持った痛みと変形で身の回りのことができなくなる方も。さらに、関節リウマチは放置しても治らず、症状を和らげることも難しいため、指の変形が強く見られてきたら、病院を受診しましょう。
ケガや病気になっても頼れる「介護保険制度」

健康な状態を維持するために、日頃からケガや病気を予防することが、高齢者にとって最も理想的です。しかし、どれだけ気を付けて生活していても、ケガや病気になることがあります。そのようなときに頼れるのが、「介護保険制度」です。
介護保険制度は、介護を必要とする高齢者や障がい者を支援する公的保険制度です。この制度は、2000年(平成12年)に創設され、「介護を必要とする高齢者を支える制度」として、定着しました。介護保険制度では、65歳以上の高齢者、及び40~64歳までの「特定疾患」に罹患(りかん:病気にかかること)した人が、「介護サービス」を受けることができるのです。
65歳になると、住んでいる市区町村から「介護保険被保険者証」が送付され、介護保険被保険者証を使うことで様々なサービスや給付の受給が可能です。64歳以下の場合は、特定疾患を理由にした申請により交付。介護保険被保険者証を受け取った方は、「要介護認定」を申請することができます。そして、要支援・要介護状態であると認められた方は、医療機関や介護福祉事業が提供する「介護予防サービス」と介護サービスを利用することが可能となるのです。
また、歩行や立ち上がりが大変になった方が、福祉用具を購入するために補助金を受けたり、日常生活に介護が必要な方が施設へ入所したり、重い病気の後遺症で介護を要する場合には、「医療的ケア」を利用することで本人・家族の負担を軽減することができます。
まとめ
高齢者が健康で安心できる生活をしていくためには、運動や栄養に気を付ける習慣を付け、介護状態となることを予防していくことが重要です。しかし、生活に気を付けていてもケガや病気は訪れるときがあります。その場合には、介護保険や医療機関など、適切なサービスを受けることが可能です。
なお、介護保険制度は区分や受けられるサービス、給付額が複雑であるため、詳しくは、住んでいる市区町村の支援事務所や地域包括支援センターに問合せましょう。